「内向型」――テレビやSNSで、この言葉を耳にする機会が増えた。
人と関わる時間よりも、一人の時間により価値を置く人たちのことだ。
けれども現代社会では、積極的に発言できる人や社交の場で輝ける人が「理想像」とされがちだ。
そのため、多くの内向型は社会で「自分は劣っているのでは」と感じ、生きづらさを抱えやすい。
こうした外向型優位の社会に警鐘をならし、内向型の強みを世界に伝えた人物がいる。
全米ベストセラー『Quiet: The Power of Introverts in a World That Can’t Stop Talking』
(邦題『内向型人間の時代』)の著者、スーザン・ケインだ。
この本は、内向型が持つ集中力や共感力といった資質を、どのように社会で活かせるかを示し、自身に悩む人に新しい意味を与えてくれた。
ケイン自身も典型的な内向型で、長年、世間とのギャップに悩んできた一人だという。
彼女の考えを知ることは、私たちが自分の資質を理解し、よりよく生きるためのヒントになる。
スーザン・ケインという人物
弁護士から作家へ――【Quiet】が生まれるまで
スーザン・ケインはプリンストン大学を卒業後、ハーバード・ロー・スクールで学び、ウォール街で金融弁護士として働くことになる。
輝かしいキャリア (アメリカの超エリートコース)を手にしたはずが、彼女に待っていたのは外向型が至上とされる社会だった。
内向型の彼女は無理に社交的な仮面をかぶり続け、日々をすり減らしていく。
大事な講演の前では不安で「死にたい」と考え、夜に眠れないこともあるほど人前が苦手な人物だったのだ。
そんな生活の中で、ふと疑問が生まれる。「なぜ内向型がここまで生きにくいのか?」
その答えを探すために弁護士を辞め、執筆に専念する。そして7年の歳月をかけて完成させたのが2012年に出版された著書『Quiet』である。
TEDトークで世界に広がった内向型ブーム
『Quiet』を刊行した同年、TED (世界的に注目される国際会議)で「The Power of Introverts」を講演。
講演の内容はシンプルで主張も一貫している。それは【内向型は欠点ではなく、社会に必要な力を持っている】というものだ。
「対人関係で悩んでいるのはあなたのせいじゃない」――これが彼女の主張だ。
ユーモアがあり温かみを感じる話し方の上、根拠もあり理論的。世界中の注目を浴びるだけあって、めちゃくちゃ面白い。
日本語字幕あり、20分という短い時間なので内向型で「生きづらい」と感じるならぜひ見てほしい。
この動画は数千万回と再生され、内向型のイノベーションを巻き起こしている。
ちなみにこの講演はQuietとメッセージ性は同じ。心理学研究や社会的な文脈を除いた本の圧縮版。
そのため、まずこの動画を観ればケインの思想の核心を理解できる。
さらに「背景まで詳しく知りたい」「研究や事例も読みたい」と思った方は、記事まとめの下に紹介している本を手に取ってみてほしい。
スーザン・ケインから知る内向型
外向型社会に偏った価値観
ケインの見解はこうだ。現代は「大胆で社交的な外向型」な人物を高く評価する傾向がある。
「消極的で寡黙」な内向型は、そんな社会の中で力を発揮しづらい。
学校ではグループ活動が推奨され、教師は「理想の子供=外向型」と思いがちだ。(アメリカと日本の価値観で多少異なる可能性はある)
新集団思考という考え方もあり、創造性や生産性は社交的な場から生まれると考えられている人たちも数多くいる。
これらはまったく誤解であり、内向型の力を勘違いしている。
しかし社会は内向型を隅に追いやることに夢中だ。
ケインの調査結果では、実際に内向型の方が知識を持ち、成績もいいとされているのに、内向型というだけで問題児とされている。
社会でも同じだ。壁のない開放的なオフィスで仕事を行い、絶えず他人の視線にさらされている。
そしてリーダーシップが必要な役割からは、内向型な人はいつも除外されている。
注意深くて大きなリスクを避ける内向型は避けられ、リスクを好む外向型が評価される。
こんな環境で内向型が力を発揮するのはとても難しいように思える。
内向型リーダーの強み
内向型はリーダーとして優れた資質を持っていることが多い、と彼女は語る。
他人の意見に耳を傾けやすく、地位に依存しない。冷静な判断力を持ち「能動的な部下」を持てば自由に活かすことでチーム全体の力を伸ばせる。
世界を牽引してきたアメリカ大統領リンカーン。現代のビル・ゲイツやウォーレン・バフェットも内向型として広く知られている。
ケインは、外向型のリーダーが悪いと言っているわけではないが「チームによっては内向型リーダーのほうが強い成果を出すことも可能である」という立場だ。
アメリカの心理学者アダム・グラントによる仮説でも「外向型リーダーは受け身の部下に強く、内向型リーダーは積極的な部下に効果的だ」とされている。
外向型リーダー | 内向型リーダー |
---|---|
積極的に意見を出し、場を引っ張る | 他人の意見をよく聞き、調整力がある |
カリスマ性でチームを鼓舞する | 部下の自主性を尊重し、力を引き出す |
行動力がありリスクを取る傾向 | 慎重でリスク管理に優れる |
受け身の部下を動かしやすい | 能動的な部下を伸ばしやすい |
ケインが示した3つの提案
講演の中でケインは、内向型で悩む私たちに3つの行動の呼びかけをした。
- 絶えずグループ活動するなんてことはやめる
- 荒野に行き、自分の思索に耽る時間を増やす
- 自分のスーツケースの中身を、他人に開いて見せる
簡単に説明すると以下のようになる。(私が要約)
- 集団行動を常に行わず、一人で集中できる時間を必ず持つ
- 刺激から離れ、一人で静かに考える時間を確保する
- 大切に持ち歩く「自分の資源」を世界に分け与える勇気を持つ
これはケインから、内向的な性格で悩んでいる人に向けた、重要な指標だ。
まずはこの指標を、頭に叩き込むことから始めるのがいいと私も考えている。
人は内向型と外向型の間で揺れている
内向型と外向型は固定的な二分方では測れないとされている。
内向型と外向型を初めて提唱したユング自身も「極端なタイプは存在せず、多くはその間をさまよっている」と述べている。
内向型と外向型のちょうど中間に位置する両向型とされる人もいる。
しかし、人は内向型と外向型のどちらかに傾いている。最も大切な考え方は両者のバランスを取ることだ。
お互いのアイデアを交換し、適切な役割を持つことが重要だとケインは説いている。
例えばスティーブ・ウォズニアックとスティーブ・ジョブズが協力してアップルを創業したように。
※ウォズニアックは内向型として知られているが、ジョブスは賛否分かれている。
ケインから学べる第一歩
ここまでスーザン・ケインについて語ってきたが、彼女の主張は一貫している。
【内向型は欠点ではなく、社会に必要な力を持っている】
私も同様に思う。内向的な資質をネガティブな意味で捉える必要はまったくないと。
ケインの主張は、内向型特有の悩みを抱えている私たちの自己理解と自己受容に直結する。
まずは、内向型に向けた3つの呼びかけのうち、1つでも実行に移すことができれば、それは大きな一歩に繋がる。
- 集団行動を常に行わず、一人で集中できる時間を必ず持つ
- 刺激から離れ、一人で静かに考える時間を確保する
- 大切に持ち歩く「自分の資源」を世界に分け与える勇気を持つ
まとめ|内向的な自分を受け入れてもいい
スーザン・ケインの思想は「内向的な資質を肯定する」だけでなく、社会の価値観を一石を投じた。
彼女のTED講演や著書は、内向型を理解する、最良の入口になっている。
そして、このブログではケインの考えを手がかりに、内向型が自分らしく生きるためのヒントを発信している。
興味を持った方は、ぜひ関連記事や本にも触れて、自分なりの「生き方」を見つけてほしい。
- スーザン・ケインは「内向型を欠点ではなく、社会に必要な特性として見る」視点を世界に広めた。
- 内向型で生きづらさを感じる人にとって、彼女の著書とTED講演は自己理解の第一歩となる。
- 日本ではあまり有名ではないが、現代に内向型という言葉が広く普及しているのは彼女の功績が大きい。
スーザン・ケインの本紹介とおすすめの3冊
原著はもちろん英語なので私は読めない。(いつかは読みたい)
日本語訳にも色々あって迷うかもしれないが、私がおすすめするのは3冊。
ちなみにどれも内容は同じ。深堀りしたいか読みやすさで判断するといい。
『静かな力』
✅ 一番読みやすい
✅ 子ども向けだが小学生には難しく、中高生や親向け
✅ ティーンや親子関係で役立つ
『内向型人間が無理せず幸せになる唯一の方法』
✅ 再編集版、最もバランスが良い
✅ 読みやすさ+網羅性
✅ 初めてケインを読む人におすすめ
『内向型人間のすごい力 静かな人が世界を変える』
✅ 文庫版(原著の完全翻訳)
✅ 長さは再編集版の1.5倍くらい?
✅ 深掘りしたい人向け
発行年 | 書籍タイプ | タイトル | 説明ポイント |
---|---|---|---|
2012 | 原著(英語) | Quiet: The Power of Introverts in a World That Can’t Stop Talking | ケインの思想のオリジナル版(全文英語)。内向型を再評価する流れをつくった代表作 |
2013 | 邦訳(単行本) | 『内向型人間の時代 社会を変える静かな人の力』 | 原著を忠実に翻訳。日本で「内向型」という概念が広く知られるきっかけになった |
2016 | 文庫版 | 『内向型人間のすごい力 静かな人が世界を変える』 | 単行本とほぼ同内容。より手軽に読める価格とサイズで再刊 |
2016 | 子ども向け(原著) | Quiet Power: The Secret Strengths of Introverts | 内向型の子どもやティーンに向けて再構成した内容。教育者や親にもおすすめ |
2018 | 子ども向け(邦訳) | 『静かな力』 | 『Quiet Power』の日本語版。中高生や保護者に向けてわかりやすく編集 |
2020 | 再編集版 | 『内向型人間が無理せず幸せになる唯一の方法』 | タイトル・構成をリライトした再編集版。現代の自己啓発的ニーズに合わせた形 |
よくある質問(Q&A)
- 一言で説明して?
-
内向型は欠点じゃないから、自分を否定しなくていいよ!
- 動画だけでもいい?
-
いいよ!でも本格的に学びたいなら『静かな力』もおすすめ!
- スーザン・ケインは科学者?
-
作家だよ!でも7年かけて心理学や社会学の研究者を取材しているから内容はガチだよ!
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