クロどんなテーマから読みたいニャ?
クロどんなテーマから読みたいニャ?

「なぜ誰も自分を理解してくれないのか」――そう感じた経験を、誰もが一度は持っている。
もしかすると今も、何かに悩んでいるのに、それを家族や友人、職場の人が分かってくれないと感じていないだろうか?
なぜあなたは理解されないのか?
なぜ人はいつも勘違いしてしまうのか?
なぜ自分はこう感じてしまうのか?
実は、「理解されない」という悩みの多くは、心理学で説明できる。
もちろん、心理学の用語を覚えるだけで人間関係がうまくいくわけではない。
けれど、仕組みを知っておくだけでも、心の整理がしやすくなる。



知らないより、知っていた方が生きやすくなるニャ。
この記事では、日常の中で起こる「思考のクセ」を13個に整理し、心理学的な背景とあわせて分かりやすく解説していく。
そして、このブログらしく〈内向型〉や〈HSP〉との関係にも触れながら「理解されない」をやわらげるヒントを紹介していこう。
✅この記事の概要
あなたは「他人からどう見られているか」を気にするタイプだろうか?
身だしなみを整え、他人が理想とする自分を演じ、恋人や上司に好印象を与えようと努力する。
こうした努力はとても大切だ。
けれど、あなたを本当の意味で理解している人は、驚くほど少ないかもしれない。
少し想像してみよう。あなたが「もっとも理解している」と思う人を思い浮かべてほしい。
その人は、どんな偏見を持っている?
どんなときに怒り、どんなことで感動する?
👉 その理由まで、本当に理解できているだろうか?
相手がたった一人でも、すべてを理解していると答えられる人はほとんどいない。
そして、その理解が本当に正しいかどうかを確かめることもできない。
家族や友人、同僚――関わるすべての人に同じ理解を求めるのは、ほぼ不可能だ。
〈人が人を理解する〉というのは、想像以上に難しいことなのだ。



人の心は、見えているようでほとんど見えてないニャ。
人は想像している以上に「自分本位」に行動している。
これは道徳の問題ではなく、生物としての本能に基づく仕組みだ。
たとえば、慈愛の精神に満ちた人。
ボランティア活動をする人。
いつも誰かを助けている人。
これらの人々は一見「他者本位」に見えるが、実際にはそうではない。
彼らは自分の行動に「道徳的価値」や「幸福感」「共感」を感じるからこそ、そのように行動しているのだ。
つまり、他者思いに見えても、その根底には「自分がそうしたいから」という感情がある。



冷たく聞こえるけど、これが人の自然な仕組みニャ…
ここまでを踏まえると、「理解されない」ことにも理由が見えてくる。
そもそも、人を完全に理解することは難しく、純粋に他者本位で行動する人はいない。
さらに、脳の認知システムそのものが、他者理解を阻んでいる。
ここからは、「理解」に関わる人の認知の原則を2個、心理学的な視点から紹介していこう。
人はなぜ誤解し、なぜ他者を正しく理解できないのか──その根本には、脳の働きに由来する思考のクセがある。
人は「必要だと思えることは考えるが、それ以上は考えない」。この傾向を【認知的倹約家】という。
脳はあらゆる場面で、手間を省くために「過去の経験」や「思い込みを含んだ記憶」をもとに判断する。
この考え方は非常に広い意味を持つ。
たとえば「SNS依存」も、手間をかけずに手軽な快楽を得るという行動の一例といえる。
脳は「今すぐ新しく考える必要がある」と感じたときだけ本気を出す仕組みになっている。
逆に必要がないと判断すると、なるべく考えずに、それっぽい記憶や経験をもとに思考のショートカットを行う。
つまり、人は思考において、できるだけエネルギーを使わないようにしているのだ。
これは「効率よく考える」という点ではメリットもあるが、一度思考が固定化すると「印象が変わりにくい」というデメリットをもつ。
この認知的倹約家の傾向は、これ以降に紹介するさまざまな認知バイアスとも深く関係している。
たとえば、③で説明する【初頭効果】や【ハロー効果】では、初対面で決まった印象を、その後も更新しないまま信じ続けてしまう。



ようするに「人に対する思い込み」が固定化されるニャ。
私たちの脳には、「速く直感的に判断するシステム」と「ゆっくり論理的に考えるシステム」の2種類がある。1
これは心理学者ダニエル・カーネマンが提唱した理論であり、行動経済学の基盤にもなった考え方だ。
行動経済学=「人は合理的に考える」という経済学の前提を覆し「人は不合理に判断する」という心理学的視点を導入した学問
著書『ファスト&スロー』では、この2つのシステムを「システム1」「システム2」と呼んでいる。
多くの人は、日常の大半をシステム1で処理している。(ただし特性によって、システム2を使いやすい人とそうでない人がいる)
なぜなら、脳は「早く」「楽に」「正しそうに感じる」判断が大好きだからだ。システム2を働かせるには、多くのエネルギーが必要になる。
しかし、この「速さ」には落とし穴がある。
直感がうまく働く場面もあるが、人間関係のように複雑な場面では誤解を招きやすい。
そもそも、同じ人間は一人として存在しない。システム1だけで人を判断しようとするのは、ほとんど「勘に頼る博打」といえる。
さらに、どんな人でも、疲労が重なるとシステム2は作動しなくなる。
たとえば夜勤や慢性的な疲労が続くと、脳がエネルギーを節約しようとするため、システム1が思考の大半を占めるようになる。



夜勤明けの運転時などは特に注意ニャ。
①認知的倹約家と②ファスト&スローを踏まえると、私たちが日常で抱く「誤解」や「思い込み」には、共通する心理的なパターンが見えてくる。
人は合理的に考えているようで、実は脳がいつも〈思考の近道〉を選び続けているのだ。
ここからは〈思考のショートカット〉がどんな形で誤解を生み出すのか、代表的な心理現象を8個に分類して紹介していこう。
面接や職場、あるいは大事な取引など。
「第一印象が大事」「印象は10秒で決まる」と何度も耳にしたことがあるだろう。
実はこれは単なることわざではない。心理学的にも正しく、初対面があなたの印象のほとんどを決めてしまう。
このように、最初に得た情報が印象を強く左右する現象を初頭効果という。
最初に得た情報が、その人の印象を強く決めてしまう現象。
例えば【だらしない人】と【きっちりした人】の二人がいたとしても、あとから努力しても最初の印象はなかなか変わらない。
結果として、最初から【きっちりしている】と見られた人の方が評価が上がりやすい。
そして、この初頭効果による印象が他の評価にも影響してしまう。
一つの特徴から全体を推測してしまう脳のショートカットがここで働いている。
この現象が、ハロー効果(光背効果)と呼ばれるものだ。
ひとつの特徴(外見・肩書・話し方など)が、他の評価までも左右してしまう心理現象。
例えば、初対面で「だらしない」と感じた相手に対して「きっと仕事も雑だ」「時間にもルーズだ」といった先入観を抱いてしまう。
面接や入社式など、最初の数日間は誰もが相手を慎重に観察し、システム2(思考)を使って判断する。
しかし、それを過ぎると脳は省エネモードに入り、システム1(直感)がほとんどを支配するようになる。



避ける方法は…努力するか、初対面を大事にするかニャ。
「ステレオタイプ」という言葉は誰もが聞いたことがあるだろう。これは、特定の集団に対するイメージを個人に当てはめて判断してしまう心理現象のことだ。
集団のイメージをもとに、個人まで同じように見てしまう認知のクセ。
例えば、漫画やアニメで描かれる「外国人像」を思い浮かべてみよう。
あるいは、特定の宗教や職業の人を、無意識のうちに「こんなタイプだ」と決めつけてしまうこともある。
「タイプ」とついているが、性格分類ではなく、誰もが持っている心理的な認知バイアスのひとつ
このステレオタイプは日常でも意識しやすいが、無意識のうちに働いている場合がもっとも厄介だ。
例えば「漫画の中のアメリカ人=実際のアメリカ人」だとは思わないものの、知らず知らずのうちに似た思考をしていることがある。
内向型はみんな暗い
あの作品を好きな人はちょっと危ない
男性は理論的で、女性は感情的だ
こうした思い込みは、私たちが気づかぬうちに人間関係や社会の見方を歪めてしまう。



無意識のステレオタイプが一番怖いニャ…
「今日はなんとなく嫌な予感がする」「あの人、なんか信用できない」――そう感じたことはないだろうか?
実は、私たちの脳はしばしば気分や印象を〈判断の材料〉として使っている。
このような思考の近道を、心理学ではヒューリスティックと呼ぶ。
複雑な情報を簡易的に処理して、すばやく判断するための仕組み。
言い換えれば、経験則や感情を使った「思考の近道」だ。
例えば、雨の日に大怪我をした場合、雨の日を無意識的に怖がるようになるなど。
これは脳のエネルギー節約の結果でもある。
すべての情報を慎重に分析するには時間と労力がかかるため、脳は〈感情や経験〉を結び付けて判断をショートカットする。
しかし、その瞬間の気分や印象が誤っていれば、判断全体がズレてしまう危険もある。
やっかいなのは、自分では気づかないうちに、そのときの気分に判断が左右されてしまうということだ。
ヒューリスティックは非常に広い意味をもち、私たちはあらゆる場面・状況・感情を無意識のうちに学習している。



気分が悪い日は「判断もブレる日」ってことニャ。
たとえば私は、小学生のころに夕食にピザを食べたのだが、翌日に熱が出てインフルエンザと診断された。
その日からなぜか、ピザの匂いを嗅ぐだけで吐き気を覚えるようになり、数年間食べられなかった経験がある。
これもまた、ヒューリスティックの一種だ。
誰かが遅刻したとき、「だらしない人だな」と感じたことはないだろうか?
しかし実際には、電車が遅れていたり、体調が悪かったり、他に理由があるかもしれない。
それでも私たちは、「行動の原因」を「その人の性格に結びつけて」考えてしまう。
この心理現象を、心理学では対応バイアス(根本的な帰属の誤り)という。
他人の行動を、状況ではなく「性格や人柄」で説明してしまう心理のこと。
例えば、テレビのニュースにも注意が必要だ。
報道では犯罪者が「悪人」として描かれることが多いが、その行動の背景や理由までは語られない。
限られた情報だけで「人間のクズ」と断じてしまうのは早計だ。
その思い込みが集団の中で広がると、いわゆる〈私刑〉につながる危険もある。
この対応バイアスも、状況を深く考えず「性格のせい」と結論づけてしまうことで思考の手間を省いている。
誤解を減らすには、まず「状況の背景を想像する」こと。人の行動には、見えない理由があるかもしれない。



つい「性格のせい」にしちゃうのは、人間あるあるニャ。
「あれだけ言ったのに、なんで分かってくれないの?」「気持ちが伝わると思ってたのに…」
こうしたすれ違いの多くは、自分の感情や意図が相手に伝わっていると思い込む心理――透明性の錯覚によって起こる。
自分の気持ちや考えが、相手にも明確に伝わっていると思い込んでしまう心理現象。
しかし実際には、相手が理解しているのは「言葉」や「表情」のごく一部にすぎない。
つまり、自分がどれほど「伝えたつもり」でも、相手には半分も届いていないことが多い。
この錯覚は、特に人間関係の摩擦を生みやすい。職場、友人、恋人関係――どんな場面でも「伝えたつもり」が誤解のもとになる。
伝わっていない前提で、丁寧に言葉にする。これが誤解を減らす第一歩になる。
「対応バイアス」が〈他人を誤解してしまう〉自分の心理の問題なら「透明性の錯覚」は〈自分が相手に誤解される〉問題だ。



心の声は、思ってるほど相手に届いてないニャ。
この二つが重なると、相互理解はさらに難しくなる。そして、誤解を深める認知バイアスはまだ他にも存在する。
「これくらいみんな分かってる」「普通はこう思うはず」――そう感じたことはないだろうか?
実はそれ、心理学では偽の合意効果と呼ばれる現象かもしれない。
自分の考えや感じ方、価値観を「多くの人も同じだろう」と思い込む心理現象。
つまり「自分が普通」だと錯覚し、他人も同じ基準で判断していると誤解する。
たとえば、あなたが「メールの返信は早いほうが礼儀」だと思っているとする。
返信が遅い相手に「無礼だ」と感じたなら、それは相手を責めているのではない。
それは相手の問題ではなく、自分の常識を〈多数派の正解〉だと思い込んでいるということになる。
この思い込みは、SNSでも顕著に現れる。
「自分の意見に賛同する人ばかりが目に入る」ため、ますます自分の考えが正しいと感じてしまうのだ。
この現象を強めるのが、確証バイアスである。
自分の信じている考えを裏付ける情報ばかりを集め、反対の情報を無視してしまう心理。
つまり、自分の信念を守るために「見たいものだけ見る」という脳の習性だ。
この二つのバイアスが重なると「相手が間違っている」と確信するようになる。
対話ではなく対立が生まれ、理解の可能性がどんどん遠のいていく。
自分の意見が「みんな同じ」と思ったときこそ、立ち止まって考えてみよう。それが真の理解への第一歩になる。



「自分だけの常識」に気づくのも、大事な理解の一歩ニャ。
ここで少し〈正義〉の話をしよう。
私が考える正義とは、端的に言えば「自分が良いと思っている行い」である。
「正義の反対は、また別の正義」という言葉があるが、これはまさに偽の合意効果の象徴だ。
誰もが「自分の正義はきっと正しい」「みんなも同じはず」と信じてしまう。
その思い込みが、すれ違いや対立を生む。
多様性を認めるのも、また正義だ。
「あの人、なんかイライラする」「あいつのこういうところが嫌い」
そう感じたとき、それは自分の中にもある部分を見ているのかもしれない。
投影(projection)とは、自分の感情や弱点を相手の中に映し出してしまう心理のことだ。
自分の受け入れがたい部分を切り離し、他人がそれを持っているかのように感じてしまう無意識の心の働き。
例えば、自分が「怠けたい」と思っているとき、余裕そうな同僚を見ると腹が立つ。
また、自分の中の嫉妬を認めたくないとき、「あの人が自分を妬んでいる」と感じてしまうこともある。
投影は誰にでも起こる自然な反応だが、気づかないままでは他人を誤って責めてしまう。
イラッとしたときは、「これは本当に相手の問題? それとも自分の中の何か?」と立ち止まってみよう。



他人は自分を映す鏡ニャ。
人は「良い印象」よりも「悪い印象」を強く記憶する傾向がある。
これを心理学ではネガティビティ・バイアスという。
ポジティブな出来事よりも、ネガティブな出来事を強く印象に残す心理のこと。
たとえば、9回の褒め言葉よりも、1回の批判のほうが強く心に残る。
この傾向は「死に直結する情報を重要視する」数万年前の生存本能に由来する。
しかし現代では、人間関係においてマイナス要因になりやすい。たった一度の誤解や失言が、長く印象を支配してしまうのだ。
そしてもう一つ重要なのが、予言の自己成就(self-fulfilling prophecy)である。
「どうせ嫌われている」と思って接すると、ぎこちない態度になり、相手も距離を取ってしまう。
つまり、思い込みが現実を形づくる心理現象のことだ。
ネガティビティ・バイアスによって悪い印象が残り、それを前提にした行動が予言の自己成就を起こす。
ここに負のスパイラルが完成する。
「どうせ分かってもらえない」と思う前に、まずは小さな良い印象を積み重ねてみよう。思い込みの連鎖は、逆方向にも働く。



悪い予言も、良い予言に書き換えられるニャ。
ここまで「あなたが理解されない理由」に繋がる〈認知のクセ〉を紹介してきた。
これらは全人類共通の思考の仕組みであり、生まれつきの特性や性格に関係なく、誰もが持っている。
つまり、誰もが認知バイアスから逃れることはできない。
たとえば、私は夜勤をしている介護士だ。
深夜にナースコールを連打する〈認知症の利用者〉に対して、「何回も押さないでください!」と声を荒げてしまったことが何度もある。
当然、利用者はナースコールを押すのをやめない。(状況によるが、本人は押したと思っていない)
本来なら「なぜ押すのか」という原因を探り、安心できる環境を整えるのが介護士の役割である。
しかし夜勤が続き、疲労がたまり、仕事が滞ると、思考はどんどん狭くなる。
⑦透明性の錯覚 × ⑧偽の合意効果
――つまり「自分が言ったことは相手にも同じように伝わっているはず」と思い込む心理が働く。
その結果「認知症だから理解できないかもしれない」という前提が抜け落ちてしまう。
このように、認知のクセは誰にでも働く。むしろ、自覚していないときほど強く作用しているのだ。
夫は仕事で疲れ切って帰宅し、妻は一日中、育児と家事に追われて疲労している。
互いに余裕がない状態で、自分の希望を相手に押しつけてしまうと――当然、衝突が起こる。
しかも、疲労によって思考のショートカット(=システム1の暴走)が起こるため、冷静な判断や「相手を怒らせない立ち回り」が難しくなる。
どんなに仲のいい夫婦でも、喧嘩をするのは当たり前なのだ。



悪い面しか紹介してないけど、バイアスには良い面もあるニャ。
「偏見を持たないようにしよう」
よくあるスローガンだが、ここまで読んでくれたあなたなら分かるはずだ。これは不可能に近い。
人間は誰もが「正しい」と思う事柄を持っている。その最も代表的な形が、勧善懲悪だ。
「正しい」という概念には、必ず「間違い」が必要になる。
勧善懲悪――すなわち正義の肯定。これはまさに確証バイアスの働きである。
他者理解を説くキリスト教ですら、明確に「悪」を定義している。正しさの証明には、悪の存在が必要なのだ。
しかし自然界には「正しさ」も「間違い」も存在しない。
そこにあるのはただ、生き残るかどうか(適者生存)だけである。
だからこそ「偏見を持たない」は理想であって、現実には脳の構造上ほぼ不可能なのだ。
「私は理解されない」という思考もまた自分自身の偏見によって生まれている。⑧偽の合意効果と確証バイアス
けれど、悲観する必要はない。
「偏見の仕組み」を知ること自体が、すでに誤解から一歩抜け出しているということなのだ。



苦しいかもしれないけど、希望はあるニャ!
人は大前提として偏見を持ちやすい生き物であるが、内向型やHSP(繊細な人)は、特に誤解されやすい傾向がある。
この記事における〈内向型〉2とは、ファスト&スロー理論でいう「システム2(スロー思考)」に入りやすい人を指す。


そのため、人間関係のように情報量が多くなる場面では、膨大な処理を行うためにエネルギーを消耗しやすく、疲れやすい。
結果として、静かな環境を選びやすくなり、消極的な言動が増える。それがバイアスによって、実際とは異なる評価につながりやすい。
例えば⑥対応バイアスと④ステレオタイプ
「静かにしている」=「人見知り」「暗い人」といった誤解が生まれやすく「内向型はみんな人見知り」というステレオタイプにつながる。
さらにここでは詳しく触れないが、ラベリング効果(一度つけられたイメージが行動を変えてしまう現象)も関係してくる。


HSP3はさらに誤解されやすい。
この記事における〈HSP〉とは「システム2」に強制的に入ってしまう人を指す。
つまり、無意識のうちに五感や感情の情報を細部まで拾い、深く処理してしまうのだ。


この繊細な情報処理は、共感性や洞察力の高さとして働く一方で、環境によってはネガティビティバイアスを強めてしまうことがある。
人は「ポジティブな情報」よりも「ネガティブな情報」に強く反応するが、HSPはその両方の影響をより強く受けやすい。
このように、環境による影響の受けやすさの個人差を差次感受性という。
そのため、相手の表情や言葉の「わずかな違和感」を過敏に察知し、「嫌われたのでは?」と不安を感じやすくなる。
この反応は欠点ではなく、脳が危険を早く察知しようとする防衛反応であり、HSPの感受性の高さの裏返しでもある。
また、繊細さゆえに情報を上手く言語化できず、直感的な反応がスピリチュアル的に誤解されることも少なくない。
では「差別と偏見にまみれた社会」で私たちにはなにができるのだろうか?
最初のポイントは、「レンズを外す」ことだ。
もちろんメガネという物理的な意味ではなく、あらゆる前提や思い込みを一度リセットして考えるという比喩である。
たとえば、遅刻をしてきた職員に頭ごなしで怒るのではなく、まずは立ち止まって考えてみる。
電車が遅れたのだろうか?
昨日の夜に何かあったのだろうか?
さらに、いつも遅刻してくる職員に対しても――
何が原因なんだろう?
もしかしたら会社への不満があるのかもしれない。
それとも、単に朝に弱い体質なのかもしれない。
このように、一度「善悪のレンズ」を外して背景を想像することで、相手を責めるよりも理解する方向に思考を向けられる。



難しくないニャ。「なぜ」を深く考えるだけニャ。
人間は社会的な生き物であり、誰もが「理解されたい」という願望を持っている。
しかし「理解されたい」と求めるだけでは、他者は動かない。だからこそ、まず「理解したい」から始めよう。
これは相手に対してだけでなく、自分自身にも向ける視点だ。
自分はなぜ、こんなにも「理解されたい」と感じているのだろう?
もしかすると、過去に人に冷たくされた経験が影響しているのかもしれない。
では、自分はなぜ冷たくされたのか? その背景にはどんな誤解があったのだろう?
このように少しずつ、「他人を知る前に、自分を理解する」ことから始めよう。
すべての相互理解は、そこから動き出す。


自分や他者を理解する前に、重要な視点が一つある。それは「自分を受け入れる」ことだ。
自分を責めたまま自己理解を進めようとすると、「自分はなんて弱い」「また失敗した」とネガティブループに陥りやすい。
だからこそ、まずはありのままの自分を受け入れることが大切だ。
安心してほしい。心理学的に効果が実証された「自分を受け入れる方法」がある。
それがセルフコンパッション(self-compassion)4だ。
この3つを意識することで、自分に厳しすぎる思考をゆるめ「自分を理解するための土台」を整えることができる。


最後に紹介するのは、16タイプ論として知られるMBTI(Myers-Briggs Type Indicator)5だ。
MBTIは「自分の思考や行動の傾向」を知るための共通言語であり、他者を理解するための地図としても非常に役立つ。
性格診断としての16タイプは多くの人が耳にしたことがあるだろう。
ちなみに有名な「16Personalities」はMBTI理論を基にした派生モデルだが、実用的なタイプ理解には有用である。
MBTIの核心は「違いを優劣ではなく、ポジティブな特性として捉える」という点にある。
MBTIは科学的な診断ツールではないが、自己理解の入り口としても、他者理解のきっかけとしても非常に有効だ。
心理学的には「人をタイプで分類することはできない」という理論が一般的だが、タイプ分類の利点は分かりやすさだ。
たとえば、美容室で――
「トップを丸みのあるマッシュベースにして、襟足は少し長めに残し、全体にレイヤーを入れて、狼の尻尾のようなシルエットでお願いします!」
――と言うよりも
「ウルフカットでお願いします」
と一言で伝えた方が、スタイリストには圧倒的に伝わりやすい。MBTIもこれと同じだ。
「自分の思考や感情の傾向」をタイプという言葉で要約することで、他者とのズレをスムーズに共有できる。
もしタイプという共通言語がなければ、私たちは互いに「マッシュベースで、レイヤーで、丸みを…」と延々説明し合うことになる。
伝わらないのではなく、共通の枠組みがないだけなのだ。
「理解されない」と感じたとき、それは性格の問題ではなく、認知の違い=情報処理のスタイルの違いかもしれない。


ここまで見てきたように、「理解されない」のはあなたのせいではない。あなたは、あなたのままでいい。
そもそも、人の〈認知のクセ〉こそが、理解を阻んでいるのだ。
それでも人類は、協力し合い、ここまで文明を築き上げてきた。
人は誰かと協力し、横並びで前に進むことを喜びとする。人は他人を愛したいのだ。
その証拠に「話したことはないけど、同じ電車で会うあの人」に、なぜか親しみを感じることがある。
ファミリアストレンジャー=顔は知っているが挨拶や会話をしたことのない「見慣れた他人」を指す心理学の言葉
つまり、理解とは「才能」ではなく「努力」だ。
他者を完全に理解することはできなくても、理解しようとする努力はできる。それこそが、人間らしさの本質なのだ。
✅ この記事のまとめ
✨心理学を活用する視点
本記事は、筆者の経験や公開された研究・書籍をもとにまとめた参考情報です。6
内容を鵜呑みにせず、ご自身の感じ方や状況と照らし合わせながらお読みください。
ここで紹介しているのは、あくまで自己理解のヒントに過ぎません。
専門的な判断や緊急の対応が必要な場合は、ページ下部に記載した相談窓口。
あるいは公認心理師や臨床心理士などの専門家への相談もご検討ください。
心理学者ダニエル・カーネマンが提唱した、人間の思考を「速い脳」と「遅い脳」の2つのシステムに分けて説明したことで知られる名著。
心理学の枠を超え、経済学や社会科学にも大きな影響を与えた一冊である。
ページ数が多く上下巻に分かれているが、この記事の半分以上の内容はこの本から学んだと言っていい。
タイトルは自己啓発のように見えるが、実際の内容は「日常に使える認知心理学の大全」に近い。
この記事では扱っていないが、「信用レンズ」「パワーレンズ」「エゴレンズ」など、人が世界を見るフィルター(認知のレンズ)を体系的に解説している。
心理学を実践に落とし込む入門書として非常に優秀な一冊。


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