自分をもっとも理解しているのは、自分なのだろうか。
たとえば、性格や考え方、価値観、行動の基準など。
自分自身の認識と、他者から見た自分の姿は、どこまで一致しているのだろうか?
そして、自分自身の認識は、他者の認識よりも正確なのだろうか?
私は自分のことを、内向的で内気、他者や環境に敏感で、物事を深く考えることが好きな人間だと認識している。
しかし、こうした自己認識は、他者からの評価と一致するのだろうか?
また、仮に一致していたとしても、その認識は正確さを保証してくれるのだろうか?
今回の記事では、自己認識と他者認識、自己評価と他者評価の違いを整理していきたい。
そして、性格を正確に理解するとはどういうことなのかを考えていきたい。
目次
自己理解の盲点と限界
私のブログでは、性格心理学におけるビッグファイブ理論を引用することが多い。
ビッグファイブ理論とは?
現代の性格心理学で広く用いられている代表的な性格モデル。
人間の性格を「神経症傾向・外向性・協調性・誠実性・開放性」という5つの特性から捉える。
ビッグファイブは、心理学の研究でも広く支持されているモデルである。
しかし、質問紙による自己評価を用いる場合には、回答者自身の認識や判断に左右されるという限界もある。
自己評価に潜むバイアス
「ある分野において、能力の低い人ほど自分の能力を実際よりも高く評価する傾向が見られた」
このような結果を報告した、有名な研究がある。
この研究で報告された現象は、研究者の名前に由来して「ダニング=クルーガー効果」と呼ばれている。
ダニング=クルーガー効果とは?
特定の分野において、能力の低い人が自分の能力を実際よりも高く評価する傾向を指す。
一方、能力の高い人にも、自分の相対的な能力を過小評価する傾向が報告されている。
ただし、こうした結果の解釈についてはさまざまな議論もある。
この研究は、自分の能力を正確に評価することが容易ではないことを示唆している。
また、インターネットでこの現象を検索すると、「陥りやすい人の特徴」といった記事も見られる。
しかし、こうした自己評価の偏りは、特定の人だけに見られる個性ではない。
人間の認知に生じうる偏りとして捉える必要があり、単純に良し悪しで判断することは適切ではないだろう。
加えて、自己評価と他者評価のズレを検証した研究 では、自身を他者よりも高く評価する傾向が報告されている。
その傾向には個人差があり、自己評価を過大にする人もいれば、過小にする人もいた。
また、こうした評価の偏りには、パーソナリティ特性が関連していることも示された。
ただし、個人の特性が関係するのは、おそらく認知バイアスそのものの有無とは考えにくい。
おそらくは、個人の特性は『過大評価に傾くか、過小評価に傾くか』という方向性の違いだろう。
SOKAモデルが示す違い
では、自分自身の性格や特性を理解するうえで、自己評価と他者評価のどちらが正確なのだろうか?
この疑問を考えるうえで参考になるのが、心理学者シミン・ヴァジールによる研究 で提唱されたSOKAモデルである。
自己他者知識非対称性(SOKA:Self-Other Knowledge Asymmetry)
パーソナリティにおいて、どの側面が自分自身で正確に把握しやすいのか。
反対に、どの側面が他者から正確に把握されやすいのかを予測するモデル。
性格特性の観察可能性と評価性によって、自己評価と他者評価の正確さが異なると考える。
この研究では、パーソナリティ特性の「観察可能性」と「評価性」から、自己評価と他者評価の正確さを検証した。
観察可能性 :その特性が、他者からどれほど観察しやすいか。
評価性 :その特性が、社会的にどれほど望ましい、あるいは望ましくないと評価されるか。
研究の結果、特性によって自己評価と他者評価のどちらが正確になりやすいかが異なることが示された。
神経症傾向 :内面的で観察しにくい特性であるため、自己評価の方が正確な傾向が見られた。
知性に関する特性 :社会的な望ましさが関係しやすく、他者評価の方が正確な傾向が見られた。
外向性: 自己評価と他者評価の正確さに、大きな差は見られなかった。
つまり、この研究結果は次のように整理できる。
不安や感情の揺らぎなど、外から見えにくい内面的な特徴は、自分自身の方が把握しやすい。
知性に関する特徴は、社会的な評価が関わりやすく、他者の方が正確に判断できる場合がある。
外向性については、自己評価と他者評価のどちらか一方が優れているわけではない。
自己の知的側面や能力に関しては、他者評価(客観的な評価)の方が正確性が高かった。
これは、自分を高く見せようとする「自己高揚バイアス」が働きやすいからだと言われている。
ジョハリの窓と自己理解
不安や感情の揺らぎなど、外から見えにくい内面的な特徴は、自分自身の方が正確に把握しやすい。
他者から観察しやすい特徴であっても、自己評価には認知バイアスが影響し、正確に把握できない場合がある。
ただし、自己認識の正確さにはメタ認知能力なども関係するため、一概には言えない。
メタ認知能力:自分自身の思考や判断を客観的に捉える能力
そこでまずは、自己認識と他者認識の違いを整理してみたい。
4つの窓と性格の認識
「ジョハリの窓」は、自己認識と他者認識の違いを整理するための、古典的なコミュニケーションモデルである。
このモデルは、1955年に心理学者ジョセフ・ルフトとハリントン・インガムによって考案された。
開放の窓 :自分も他者も認識している特徴。共通認識のある性格や行動など。
盲点の窓 :他者は認識しているが、自分は気づいていない特徴。他者から見た長所など。
秘密の窓 :自分は認識しているが、他者には知られていない特徴。隠している感情など。
未知の窓 :自分も他者も認識していない特徴。可能性や未知の側面など。
ジョハリの窓は、あくまでも自己理解と他者理解を促すためのコミュニケーションモデルである。
すなわち、性格評価の正確さを測定するものではない。
しかし、先ほどのSOKAモデルで示されたパーソナリティを、ジョハリの窓に当てはめて考えることはできる。
開放の窓:外向性
社交的な振る舞いなど外から観察しやすい特徴は、自分と他者の認識が共有されやすいと考えられる。
盲点の窓:知性や能力に関する特徴
自己評価に偏りが生じやすい側面では、自分が気づいていない特徴を他者が認識している可能性がある。
秘密の窓:不安や緊張、内面的な葛藤
外から観察しにくい特徴は、自分自身だけが認識している場合がある。
認識の一致と正確さ
開放の窓では、外向性のように観察しやすい特徴について、自分と他者の認識が一致する場合がある。
一方、盲点の窓や秘密の窓では、そもそも両者の認識に違いがある。
しかし、だからといって、盲点の窓や秘密の窓よりも、開放の窓における認識の方が正確であるとは限らない。
なぜなら、自分と他者の認識が一致していても、その認識自体が誤っている可能性があるからだ。
この違いを考えるうえで参考になるのが「エコーチェンバー」と呼ばれる現象だ。
エコーチェンバーとは?
似た意見や価値観を持つ人同士が交流することで、特定の意見や信念が繰り返し共有され、強化される現象。
異なる意見に触れる機会が限られ、自分たちの考えが広く支持されている感じやすくなる場合がある。
つまり、複数の人が同じ認識を持っていたとしても、それだけで認識の正確さが保証されるわけではない。
もしかしたら「第三者の認識(共同体の外側)」では、まったく異なる認識を持っている可能性もある。
「認識の一致」と「認識の正確さ」は、区別して考える必要がある。
では、自分自身をより正確に理解するには、どうすればよいのだろうか。
自分を正しく理解するには
自分と他者の認識が一致していたとしても、それが正確さを保証するわけではない。
だからこそ、自己評価や他者評価だけに頼らない。
実際の行動や成果、客観的なデータなど、複数の情報を手がかりにすることが重要だろう。
また、『何を、誰が評価するのか』という視点からは、自己評価や他者評価にもそれぞれ意味がある。
客観的な事実を手がかりにする
MBTIやエニアグラムなどの性格類型、特定のタイプやラベルは、それ自体が客観的な事実を示すものではない。
たしかに、MBTIなどの性格類型には長い歴史があり、「自分に当てはまっている」と感じることもあるだろう。
しかし、人間の心理や行動傾向は、それほど単純なものではく、類型論(白黒)で割り切れない。
「内向型だから向いていない」といった決めつけは、自分の行動や可能性を制限する可能性もある。
まだ気づいていない素質(未知の窓)を発見する機会を狭めることにもなりかねない。
性格心理学におけるビッグファイブや、この記事で紹介したSOKAモデルは、実証的な研究に基づく枠組みである。
ただし、科学的な研究に基づくモデルであっても、個人の性格を完全に把握できるわけではない。
そのため、実際の行動や経験、成果などの事実も参考にする必要がある。
ここで重要なのは、実際に起きた事実と、そこから導かれる解釈を区別すること だろう。
観察できる事実と解釈の例
事実 :大勢の前で発表した際、緊張して頭が真っ白になった。
解釈 :人前での発表に苦手意識があるのかもしれない。
事実 :一人で過ごす時間が続くと、気持ちが落ち着き、集中しやすくなる。
解釈 :一人で過ごす環境が自分に合っている可能性がある。
自分の性格を理解するうえでは「内向型/外向型」とするより「こうした傾向がある」と捉える方が適切だろう。
もっとも、このブログの名前は「内向型ラボ」であり、私自身も内向型を自認しているので、少々矛盾している。
とはいえ、ラベルにとらわれすぎない限り、対外的にはラベルがあった方が何かと便利なのだ。
外側からのフィードバック
自分自身の傾向をある程度把握することはできる。
だがSOKAモデルが示すように、知性などの特性に関する自己評価には注意が必要だ。
また、人には行動や成果、評価や事実に対して「認めたくない」という心理が働くことがある。
「認知的不協和」と呼ばれるバイアスがあるからだ。
認知的不協和
自分の考えや信念と矛盾する事実に直面すると、心理的な不快感が生じる。
そのため、知性や能力に関する自己理解では、自分にとって都合のよい解釈を盲信することには注意したい。
第三者からのフィードバックや、実際の成果といった検証可能な情報にも目を向けることが重要だろう。
たとえば学力であれば、全国学力・学習状況調査などの学力調査は、自分を把握するための参考になる。
「自分の能力はもっと高いはずだ」という主観的な思い込みだけでは結果を覆すことはできない。
テストの結果だけで学力すべてを判断はできないが、自己評価と実際の結果にズレを確認することはできる。
確認ができるということは、その理由を考えることが可能になる。
自己評価に影響する認知の偏りを意識しながら、他者の意見や客観的な事実にも目を向ける。
そうした情報を手がかりに、自分自身の性格や能力、行動傾向を少しずつ理解していく。
その理解が完全に正確であると証明することは難しいし、実際不可能に近いだろう。
その上で、さまざまな視点から自分を見直し続けることに、自己理解の価値があるのではないだろうか。
免責事項
本記事は、各種データや社会的な視点をもとに、筆者個人の見解として考察をまとめたものです。
取り上げたテーマには多角的な議論や様々な立場が存在します。
また、記事の内容は客観的な正解や絶対的な基準を保証するものではありません。
あくまで物事を考える上での一つの視点として、ご自身の価値観や判断を大切にしながらお読みください。
参考文献
John & Robins (1994) “Accuracy and bias in self-perception: individual differences in self-enhancement and the role of narcissism”, Journal of Personality and Social Psychology, 66(1), 206–219.
Vazire (2010) “Who knows what about a person? The self-other knowledge asymmetry (SOKA) model”, Journal of Personality and Social Psychology, 98(2), 281–300.
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