「あの人は協調性がない」
そんな言葉を一度は耳にしたことがあるだろう。
あるいは、自分がそう言われて落ち込んだ経験がある人もいるかもしれない。
しかし、協調性には生まれつきの要因、つまり遺伝が深く関わっていることが心理学の研究で分かっている。
つまり、協調性の高低は個性であり、必要以上に気にすることではないのだ。
協調性(調和性)とは?
他者の心の状態にどれほど注意を向け、共感しようとするかを示す性格特性。
ビッグファイブ理論では人の性格は「外向性・神経症傾向・誠実性・開放性・協調性」の5因子に分類される。
その中で「協調性(Agreeableness)」は、他者との関係をどう築くかに関わる特性だ。
では、協調性が低い人は「社会で生きにくい」のだろうか?
必ずしもそうではない。協調性が高くても低くても、適した環境はそれぞれに存在する。
この記事ではビッグファイブ理論の「協調性(調和性)」を元に、心理学の視点から解説していく。
✅この記事の概要
- 協調性とは何か?‐心理学・ビッグファイブ理論の観点から整理
- 協調性がない人の特徴、逆に高すぎるとどうなるか?
- 「協調性がない」と言われたときの心の整理と具体的対処法
- 筆者自身の診断結果をもとにした、協調性の実例分析
この記事の参考文献はこちら 1
また、本記事のビッグファイブ理論に関する解説は『IPIP(International Personality Item Pool)』を参照しています。
目次
そもそも協調性とは何か?
まず協調性とはなにかを、現代心理学から見ていこう
協調性は「他者の心への注意力」
一般的に言われる協調性と心理学で定義される協調性は、実は少し違う。
ただし、根本の考え方は同じだ。すなわち「他者の心」にどれほど注意を向けるか。
たとえば、グループ活動や集団から距離を置く人は「協調性が低い」と見られがちだ。
しかしそれは、あくまでもその瞬間の行動であり、性格の本質ではない。
このような誤解を生むのは「ハロー効果」と呼ばれる心理的偏りである。
ハロー効果
1つの印象的な特徴や行動から、他の側面まで同じように良い/悪いと判断してしまう心理のこと。
たとえば「集団に関わらない=協調性がない」と思い込んでしまうのも、その一例である。
本当の意味で協調性は「他者の状態」に「自分の心がどれほど反応するか」で決まる。
つまり、協調性の反対は「自分中心性(エゴイズム)」である。
ビッグファイブで見る協調性
ビッグファイブ理論は、現代心理学で最も広く用いられている性格モデルの一つである。
この理論では、5つの主要因子のそれぞれに、さらに細かな「下位因子(ファセット)」が設定されている。
国際的(IPIP)に用いられている協調性の下位因子は、以下の6つである。
- 信頼(Trust):他者の善意を信じ、疑いを持ちにくい傾向。
- 道徳性(Morality):誠実で、不正やごまかしを嫌う傾向。
- 利他主義(Altruism):人を助けたい気持ちが強く、思いやりを示しやすい傾向。
- 協力(Cooperation):対立を避け、協調的な関係を築こうとする傾向。
- 謙虚さ(Modesty):控えめで、自分を誇示しない傾向。
- 共感(Sympathy):他人の感情に敏感で、情緒的に反応しやすい傾向。
ビッグファイブにおける協調性は、対人関係における「感情」「認知」「行動」のパターンとして理解される。
つまり、協調性とは「他者にどう感じ、どう考え、どう行動するか」という対人スタイル全体を表す特性である。
そして、他者への共感の仕方(思いやり)と、接し方の傾向(礼儀正しさ)に分けて捉えることができる。
- 思いやり:共感や同情、他者の欲求や関心への配慮
- 礼儀正しさ:社会規範に従う態度や、攻撃性を抑制する傾向
ただし、協調性を理解する際には注意すべき点がある。
他者の心の状態を推測する能力をメンタライジング(心の理論)と呼ぶが、これは協調性とは別の心理的機能である。
まず「相手が何を感じているかを理解する(メンタライジング)」という認知の段階がある。
そのうえで「その相手に共感しようとするか、調和を優先するか(協調性)」が決まるという階層構造。
このため、両者は部分的には関連しつつも、独立した側面を持つ別の特性として扱われている。
たとえば、サイコパス傾向のある人は、他者の心を読み取る能力(メンタライジング)は高い。
しかし共感性は非常に低いため、他人の感情に寄り添うことはなく、むしろ操作に利用しやすい。
協調性が低い=サイコパスってわけでもないからややこしいニャ。
また「男性より女性の方が共感能力が高い」と言われるように、女性の方が協調性の得点が高い傾向がある。
ただし、この差には脳機能の影響もありビッグファイブだけでは説明しきれない部分がある。2
協調性の遺伝と研究
協調性には遺伝的な影響がある。
ビッグファイブ理論をもとにした双生児研究では、各因子の遺伝率はおよそ40〜60%と報告されている。
つまり、協調性の約半分は「生まれつきの傾向」であり、残りは「環境によって形づくられる部分」である。
ただし、協調性の研究は他の性格因子よりも難しい。
それは協調性が「社会的な行動」と「内面の動機」という二面性を持つからだ。
たとえば外向性(ポジティブ情動)や神経症傾向(ネガティブ情動)は感情や行動面で分かりやすい。
誠実性(自己コントロール力)は、成果や健康などの結果と結びつけやすい。
しかし協調性は成果や行動と直結しにくい。つまり「測りにくい性格特性」なのである。
研究で測りにくいということは、すなわち「外からは見えにくい」特性とも言える。
協調性を理解するには「他者への関心の質」や「関係をどう築くか」といった、行動の文脈を見ることが欠かせない。
協調性がない/低い人の特徴
では「協調性がない」と言われる人には、どんな特徴があるのだろうか。
「協調性がない」とされやすい行動
- 議論になるとつい本音で話してしまう。
- 「まあまあ」と流すより、筋を通したくなる。
- 自分のやり方を貫きたい気持ちが強い。
- 感情よりも事実を重視する。
- 人に合わせすぎると疲れてしまう。
- 空気を読むより、誤解を恐れずに意見を言う。
- 馴れ合いや無理な社交が苦手。
- 優しさより「正しさ」を大事にする。
協調性が低い人の資質
協調性が低いことは、本当に問題なのだろうか?
たしかに、自己中心的に見える行動が目につくことはある。
しかし、この傾向は必ずしもマイナスではなく、社会や組織において重要な役割を果たす特性でもある。
心理学には「他者配慮選好」という、人が理由がなくても他人に優しくしようとする傾向を示す理論がある。
協調性が低い人は他者配慮選好が比較的低い傾向があり、それゆえに冷静さや合理性を保ちやすいという強みがある。
協調性が低いということは、「他人の感情に振り回されずに判断できる」という大きな利点でもある。
こうした特徴は、先行きの読めない状況で意思決定を求められる場面で特に発揮される。
経営者・管理職・財務など、感情に流されずに判断すべき立場では大きな強みとなる。
ただし、自己中心性が高いように見えることから、他者の意見を受け入れにくい場面も出てくる。
協調性が低いと「冷たい人」なのか?
「協調性がない人は冷たい人なのか?」── そうとは限らない。
協調性が低い人は、ロジックや効率、独立性を重視しやすく、思ったことを率直に伝える傾向がある。
その結果として「協力的ではない」「冷たい」と見られてしまうことがある。
しかし、「冷たい人」を定義するには、さらに熟考や恐怖心の欠如、無関心といった特徴を足さねばならない。
たとえば、協調性が低くてもよく考える人は「これは良くないことだ」と理性的に判断できる。
また、他人に冷たく見られることを恐れる気持ちも「冷たいと見られる行動」を抑える働きを持つ。
冷たい人とは「共感性の欠如」「他者を無視した行動」「罪悪感の欠如」といった特徴が見られる人のこと。
結局のところ「協調性が高いかどうか」は外からは単純に判断できない。
本人の内側にある動機を知らなければ、本当の意味では分からないのだ。
心理学における「冷たい人」の定義はもっと重いニャ。
協調性がない人との関わり方
協調性の低さの利点が分かっても、実際の関係になると周囲にはストレスになることもある。
では、協調性がない人とどのように関わればいいのだろうか?
相手のメリットを提示する
協調性が低い人は、「共感」よりも「合理性」や「目的の明確さ」を重視する傾向がある。
そのため、感情的に「お願い」するよりも、「あなたにとってもメリットがある」と伝えるほうが納得して動きやすい。
これは「フレーミング効果」と呼ばれる心理的バイアスで、人の行動選択に影響を与える方法だ。
たとえば、「みんなでやろう」よりも「この方法なら効率が上がる」と伝えるほうが効果的だ。
協調ではなく合理性に訴えることで、衝突を減らし、相手との信頼を築きやすくなる。
正しさを争わない
協調性が低い人は、自分の考えに筋を通すタイプが多い。いわゆる「頑固」な傾向がある。
だからこそ、意見の食い違いを「勝ち負け」で終わらせようとすると関係がこじれやすい。
「なるほど、そう考える理由があるんですね」と、一度受け止めるだけでも相手の警戒心は下がる。
人は誰でも「自分が正しいと思う情報」を集めたがる傾向がある。これは「確証バイアス」と呼ばれる心理だ。
協調性が低い人はこの確証バイアスが働きやすく、間違いを指摘しても信念を変えられないことがある。
だからこそ、相手の意見を否定するのではなく「あなたは間違っていない」と理解を示すことが大切だ。
相手の確証バイアスを一度肯定すれば、対立は生まれにくくなる。
共感ではなく尊重でつながる。それが、協調性の違う人とうまく関わるコツだ。
「冷たい人」と決めつけない
心理学でいう「冷たい人」は想像以上に厳密な定義があり、実際にはごく少数しか存在しない。
つまり「冷たく見える行動=冷たい人」ではないということだ。
たとえば、感情表現が控えめだったり、他人に深入りしないだけのこともある。
むしろ、一定の距離を保つことで相手の自由を尊重している場合もある。
「この人は冷たい」と感じたときは、その裏にある考え方や、相手なりの優しさを想像してみよう。
ラベルを貼ることは自分の思考を止めてしまう。
これは「ハロー効果」と呼ばれる心理的バイアスで、一つの印象から相手全体を決めつけてしまう現象だ。
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個人でできることを任せる
たとえば職場で、1人の協調性の低さがチーム全体の雰囲気に影響している場合は対処が必要だ。
そのようなときは「個人で完結できる仕事」や「自分の裁量で動ける業務」を任せてみるのも一つの方法である。
協調性が低い人は、合理性や独立性を重んじる傾向がある。
そのため、チームでの調整よりも明確な目標と自由度の高い環境のほうが力を発揮しやすい。
つまり、協調性が低い=扱いにくいではなく「活かし方を変えるだけ」で関係性は大きく変わる。
相手を変えようとしない
協調性は生まれ持った性格特性のひとつであり、努力だけで根本から変えるのは難しい。
だからこそ「変わってもらう」よりも「相手の特性に合わせた距離感を取る」ほうが現実的だ。
お互いに心地よい関係を築くには「理解」と「境界線」を上手に使い分けることが大切になる。
そして、自分に合わないと感じたら、距離を取ることも立派な選択だ。
協調性が高すぎるとどうなる?
協調性が高いこと自体は適応力に繋がるが、高すぎると「自分の意思より相手の希望を優先しやすい」という偏りが生まれる。
つまり、自己犠牲的になる。
① 反対意見を言えなくなる:場を乱さないことを重視し、自分の主張を控えがち。
② 要望を受け入れすぎる:相手に配慮しすぎて、選択が他者寄りになる。
③ 公平より「調和」を優先する:論理的な正しさより、角の立たない結論を好む。
社会では「優しい人」で通るかもしれないが、適切な環境選びや自己主張をしないと心は摩耗していく。
ビッグファイブの性質はトレードオフの関係で、長所と短所が必ずあると私は考えている。
適度な自己主張を取り入れることで、協調性はより健全に機能する。
「協調性がない」と言われてしまった人へ
ここからは「協調性がない」と言われて戸惑ったり落ち込んでしまった人に向けて。
そもそも誤解の可能性
まず知っておいてほしいのは「協調性がない」と言われることが、必ずしも事実とは限らないということだ。
協調性は、行動の一部だけを切り取って判断されがちだ。
たとえば「意見をはっきり言う。1人で考える」こうした行動が誤解を招くこともある。
しかし、それは「協調性がない」からではなく、思考の深さや独立性が高いだけのこともある。
人間関係は「表面上の協調」よりも「相互理解」によって成り立つ。
行動から性格を決めつけてしまうのは「対応バイアス」と呼ばれる心理的な錯覚であり、相手の理解の問題だ。
もしあなたの行動だけで「協調性がない」と言われても、気にしなくてもいいのだ。
「性格」であり「欠点」ではない
他人から指摘されて、もしくは自覚的に「自分って冷たいのかも」と思うことがあるかもしれない。
- ニュースの不幸な話を見ても、強く心が動かない
- 感情よりも事実を優先して考えてしまう
- 人に合わせるより、自分のペースを大切にしたい
しかし「自分は冷たいかもしれない」と気づけることこそが、もっとも大切な視点だ。
それは自分の道徳的な立場を理解しているということ。つまり、あなたは本質的に冷たい人間ではない。
協調性が高い人は「良い」とされがちだが、他人に気を使いすぎて自分の意思を抑えてしまうという欠点もある。
「協調性が低いこと」は他人に流されずに物事を判断できる力でもある。
その部分をどう活かせるかを考えてみると、あなたらしさがより見えてくる。
具体的な対処方法
「協調性がないのは欠点ではない」と言われても、感情論だけでは限界がある。
ここでは実際にできる具体的な対処法を整理してみよう。
①相手の立場をシミュレーションしてみる:
「自分ならどう感じるか」を頭の中で想像してみるだけでも、反応のトーンが変わる。
②目的を共有する:
協調性が低い人ほど、目的が曖昧だと動きづらい。ゴールを明確にすると、摩擦が減る。
③感情ではなく仕組みで調整する:
衝突を避けるために「ルール」や「手順」で決めておくと安心感が生まれる。
④無理に合わせない:
協調とは「迎合」ではない。自分の軸を保つことも長期的には健全な協調の形だ。
私のケース|こだわりの強さと協調性
ここからは、私自身のビッグファイブ診断結果をもとに、「協調性」という特性をもう少し具体的に見ていこうと思う。
私のビッグファイブ診断結果(協調性81)
協調性 81:人と調和しようとする傾向が強い。
- 信頼 (8 / Low):人をすぐには信用せず、慎重に距離を取る。
- 道徳性 (18 / High):誠実で、嘘やごまかしを嫌う。
- 利他主義 (14 / High):人を助けることで安心感や満足を得る。
- 協力 (17 / High):対立を避け、全体の調和を重んじる。
- 謙虚さ (13 / High):控えめで、自分を目立たせようとしない。
- 共感 (11 / Low):感情移入は少なく、物事を理性的に捉える。
信頼の低さは、過去の人間関係での失敗やいじめなどの経験が影響している。いわば「警戒心としての慎重さ」だ。
一方で、道徳性や協力が高いのは、物語を通して「正しさとは何か」を考え続けてきた影響が大きいと感じる。
ただし、他者への感情移入は少ない。これは警戒心や生まれつきの特性によるものかもしれない。
共感よりも「誠実さ」を重視する傾向
これまでの結果をまとめると、私は他者をすぐには信頼しないし、強い共感も抱かない。
一方で、道徳性が高く、協力も惜しまない。他者を助けることは当然のことだし、謙虚であろうと努めている。
私の生き方は「誰かに対して誠実でありたい」という願いに支えられている。
だからこそ感情よりも「誠実な態度」を重視する傾向がある。その姿勢は一見すると「冷たい」と映るかもしれない。
実際には「自分の感情よりも正しさを選び、他者の感情には配慮する」というハイブリッドタイプの優しさなのだと思う。
他者配慮の形は人それぞれ
正直に言えば、私は他者に「深い興味を抱くこと」があまりない。
それでも、人に優しくしたいと思うし、心が動いたときには涙を流すこともある。特に感動系の物語ではすぐに泣く
共感の形は人の数だけある。感情で寄り添う人もいれば、行動で支える人もいる。どちらも立派な他者配慮だ。
たとえ他人に誤解されても、自分が正しいと思える行動を取れていれば、それでいいと私は思っている。
私はHSPを自称しているが、「興味を抱かない」というのはHSPとは正反対の特性だ。
これは、生まれつきの傾向としての「こだわりの強さ」
あるいは過去の経験など、さまざまな要因が複雑に絡み合っている可能性を示している。
まとめ|協調性はあくまでも、個性の1つ
協調性がないことは、決して欠点ではない。
ただし、協調性の低さが原因で場の調和が乱れている場合には、適切な対処が求められる。
一方で、「協調性が低い」と言われたとしても、それはあなたの本質を否定する言葉ではない。
大切なのは、なぜそのように見られたのかを冷静に捉え、自分の内面と向き合っていくことだ。
✅ この記事のまとめ
- 協調性は「他者の心への注意力」であり、性格の良し悪しではない。
- 低いからといって冷たい人ではなく、合理的・独立的な傾向を持つ。
- 協調性の高さも低さも、状況によって長所にも短所にもなる。
- 外向性やHSPなどの要素とは独立しており、混同は禁物。
- 自分の協調スタイルを理解すれば、より健やかに人と関われる。
✨協調性がない人の対処方法
- 相手の立場を想像してみる
- 目的やゴールを明確にしてメリットを提示する
- 感情ではなくルールで調整する
- 無理に合わせず、距離感を保つ
✨「協調性がない」と指摘されたときは
- 誤解の可能性を考える(対応バイアスを意識)
- 性格特性は欠点ではなく「傾向」と捉える
- 冷たさよりも「誠実さ」で人と関わる
免責事項
本記事は筆者の経験や公開された研究・書籍をもとにまとめた参考情報です。
内容を鵜呑みにせず、ご自身の状況や感覚と照らし合わせてお読みください。
ここで紹介する内容は、あくまで自己理解のヒントに過ぎません。
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