ソシャゲは人生を豊かにするのか?
SNS上で提供される基本プレイ無料のソーシャルオンラインゲーム。通称「ソシャゲ」
ゲームの中でも敷居が低く、ワンクリックでスマホにダウンロードでき、しかも無料でプレイできてしまう。
しかし一度ハマってしまえば、時間とお金を無限に吸い続ける「悪魔」に変貌することもある。
なぜならソシャゲは、人が持つ本能を刺激し続け、プレイ時間を伸ばすように設計されているからだ。
その心理を巧みに利用した仕組みを、マーケティング戦略という。
ソシャゲと認知バイアス
プロスペクト理論:不確実な状況下では、利益よりも損失を大きく評価してしまう心理
サンクコスト効果:すでに投じた労力を惜しみ、不利益が予想されても行動を続けてしまう心理
認知的不協和:考え(やりたい)と矛盾する現実(やめたい)が生じたとき、心理的ストレスが生まれる現象
信念固執・確証バイアス:一度形成した信念や印象を維持し続けようとする心理
上記はほんの一部に過ぎない。ソシャゲは人の思考の癖と強く結びついた設計になっている。
パチンコのような音や光によって「当たり」を期待させるヒューリスティック
お得感やガチャによる快楽刺激、そして「課金すれば強くなれる」という自己コントロール感
では、そんなソシャゲをプレイし続けることは、本当に人生の幸福に繋がるのだろうか?
目次
ソシャゲは人生を豊かにするのか?
まずはソシャゲというビジネスモデル、そして私自身のソシャゲ歴を踏まえながらソシャゲの本質について考えていきたい。
ソシャゲというビジネスモデル
ソシャゲのビジネスについて考える前に、まずは現代社会の構造を少しだけ見てみよう。
現代社会の多くは資本主義社会である。
『国富論』を唱えた経済学者アダム・スミスは、市場における「見えざる手」の存在を示唆した。
資本主義と見えざる手
個人が自分の利益を追求することで、それが社会全体の利益にもつながる仕組み。
例:工場主が工場を増やせば雇用が生まれ、結果として安定した生活ができる人も増える。
ソシャゲを運営しているのは法人、つまり国に認められた「会社」という主体である。
当然ながら、運営会社がソシャゲを運営する理由は、会社の利益を継続的に生み出すためだ。
しかし、ソシャゲにおいて「見えざる手」は存在しない。それに代替されるのは「効率的な生態系」である。
一部の重課金者が無課金ユーザーの存在を支える階層構造(サーバー代など)
人気タイトルにユーザーと資金が集中し、新規参入が難しくなる「総取り構造」
効率よく収益を回収する仕組み(ガチャ・パック販売・定額課金など)
面白いコンテンツを提供すれば、課金額が増える、その資金でさらに面白いコンテンツを作る。
資本主義とは、人の欲望をエネルギーとして市場が拡大し続ける仕組みである。
ただ、ソシャゲの仕組みには問題がある。のめり込むと娯楽としての価値を超えてエネルギーを吸い取るのだ。
ソシャゲにおけるユーザーの利益とは何か。――主体によって増幅され続ける欲望そのものである。
強くしたい。人の上に立ちたい。あのキャラが欲しい。好きなキャラを愛でたい。居場所が欲しい。
独占禁止法などの法律もきわどいところをすり抜け、一見すると運営とユーザーはWIN-WINの関係にしか見えない。
しかしその実態は、高度に洗練された資本主義の申し子のようなビジネスモデルである。
ソシャゲにハマっていた私の話
ここで少し、私自身の話をしたい。
私も以前、ソシャゲにハマっていた時期があり、総課金額は何十万円か分からないほどだ。
就寝直前、起床直後、トイレ、食事中までプレイしていたほどの中毒ぶりだった。
時間の奪われ方や課金額、そして目当てのキャラが出ない不満に辟易した私は、やめることを決意した。
しかし、まともにソシャゲから手を引くことができたのは、それから1年後くらいだった。
アカウントを削除しても、数日後には運営に復帰をお願いするメールを送る始末。
「ソシャゲをやめる方法」については後で触れるが、私の教訓はこうである。
ソシャゲが人生を豊かにするのは、ソシャゲにのめり込んでいない人だけである。
つまり、「ほどほどに楽しめる人にとっては、ソシャゲは娯楽として適している」ということだ。
ただし、それは運営の「長時間の継続プレイや課金を促す心理トラップ」が効かない人に限る。
時間とお金の問題ではない
ソシャゲをやめるべき理由として、時間やお金を挙げる人がいる。しかし本質はそこではない。
時間が無駄になる、お金がなくなる――それ以上に、人生そのものが消費されていく。
自己投資という意味で得られるものはなく、娯楽であってものめり込めば深みにはまってしまう。
塩味に慣れすぎると薄味を味わえなくなるように、ソシャゲに慣れてしまうと他の娯楽が薄味に感じてしまう。
言い換えれば、人生で経験する楽しみを前借りし続けている。
繰り返すが、ソシャゲで人生が豊かになる人は、ソシャゲにのめり込まない人だけである。
なぜソシャゲはやめにくいのか
ソシャゲは、ほどほどに楽しむことができれば人生を豊かにする要因になるかもしれない。
だが、ソシャゲをプレイする以上、企業のマーケティング戦略にまったく踊らされずにいることは難しい。
人間の心理を利用したゲーム設計
現代のデジタル市場では、人の心理を的確に突いたマーケティングが使われている。
YouTubeやTikTokのショート動画のように、つい見続けてしまう構造もマーケティング戦略の一つである。
人の心理とマーケティング戦略
Netflix:動画の再生が終わると、自動的に次の動画が再生される初期設定
Amazon:顧客の閲覧・購買データからおすすめ商品を提示する
X:閲覧数や話題性が可視化されるインプレッション表示
デジタル市場では、「できるだけ長い時間使ってもらう」ために人の行動へ働きかける仕組みが作られている。
そしてそれは人の認知バイアス――思考の癖を利用しているため、完全に避けることはほぼ不可能である。
昨今では、認知バイアスを扱う行動経済学の本が書店で話題になることもある。
それを読んで「自分は知ったから大丈夫」と考える人もいるかもしれないが、そう単純ではない。
認知バイアスには、自分は陥らないと考えてしまう「バイアスの盲点」というバイアスすら存在する。
知ることである程度は避けられるかもしれないが、完全に避ける方法はデジタルから距離を置くことくらいだろう。
では、ソシャゲはどのように認知バイアスを利用してマーケティングを行っているのだろうか?
プロスペクト理論から始まる深淵
おそらく、ソシャゲが利用しているマーケティングの中でも、最も強力なのはプロスペクト理論である。
プロスペクト理論
利益を得る喜びよりも、同額の損失を避ける痛みの方が約2倍強く感じられるという理論。
ソシャゲの恐ろしい点の一つは、基本プレイが無料であることだ。
一度始めてしまえば、それだけで「時間を費やした」ことになり、その機会損失を避けたくなる。
課金をしてしまえばなおさら、プレイ時間が伸び続けるにつれて損失回避の動機は膨れ上がっていく。
期間限定イベント・ガチャ:「今引かなければ次はいつ来るか分からない」
ログインボーナス・スタミナ:「今日ログインしないと報酬がもらえない」
課金石のまとめ売り:最初に高額パック(1万円など)を提示し、参照点を引き上げる
限定パック:期間限定の割引パックによって、参照点より安く感じさせる
さらに言えば、「サンクコストの誤謬」というバイアスがかかると行き先は地獄である。
サンクコストの誤謬
「これまで数十万円使ったのだから、今やめるのは損だ(=これまでの投資を失うことになる)」という心理。
ガチャがやめられない理由の一つがこれである。
認知的不協和による自己肯定
プロスペクト理論やサンクコストの誤謬によって思考が誘導されると、人は認知的不協和に陥る。
当然である。人は自己コントロール感を持ちたい生物であり、他者から強制されることを好まない。
認知的不協和
自身の「行動」と「信念(認知)」が矛盾した際に生じる不快感や心理的ストレス。
行動と信念が矛盾したとき、人は自分の過ちに気づき離れていく――わけではない。
ソシャゲによって増幅された欲望は、もはや簡単にはコントロールできない。
行動をコントロールできないならどうするのか――信念の方を曲げるのである。
お金はかかるけれど、現実より楽しいのだからこれでいい
私がこのゲームを「選んで」プレイしている
シナリオが面白いから、楽しむために課金している
こうなると最後、確証バイアス――自分の信念を信じ続けたい心理――に陥り、抜け出すことが難しくなる。
そして人は、自分の信念を信じて突き進む。これを信念固執という。
この状態から回復させることは、悪徳な宗教団体から家族を救い出す難しさにも通じる。
それでもソシャゲが悪いとは言えない
ここまでソシャゲを散々に批判してきたが、ソシャゲ自体を悪だと言い切ることはできない。
ソシャゲは資本主義の産物であり、それを否定することは今の豊かさを否定することにもつながる。
ソシャゲには良いところもある
ソシャゲには明確に良い点もある。プレイしているだけで人間関係の輪を広げやすいからだ。
SNS、掲示板、ゲーム内チャット、オフ会など、人と触れ合える機会は多い。
また、ほどほどに楽しめる人であれば、ストレス解消にもなる――もっとも、それは簡単なことではないが。
さらに、ソシャゲのガチャ動画は人気があり、ソシャゲをプレイすること自体がビジネスになる場合もある。
やめたい人への現実的な方法
では、ソシャゲをやめたい人はどうすればいいのか?
まずはアンインストールして、心の底から面白くないと思えるソシャゲだけをプレイすることをおすすめしたい。
なんなら、あえて少し課金してバイアスを発動させるのも一つの方法だ。
キャラの見た目が好みではない、好きではないジャンル、まったく刺さらないソシャゲを選ぶ。
これはソシャゲから得られる刺激を、少しずつ弱くしていく方法である。
「1日プレイしなければいい」「スマホを近くに置かない」「アンインストールする」
こんな方法は聞き飽きたかもしれないが、果たして本当に意味があるのだろうか。
「いきなりゼロにする」という行動は、離脱症状による揺り戻しを引き起こす可能性がある。
加えて、やめたいソシャゲの情報は一切見てはいけない。理由は単純で、パブロフの犬の二の舞になるからだ。
ソシャゲと同レベルの報酬を持つ趣味
ソシャゲと同等レベルの刺激を味わえる趣味を探すのも一つの手だ。
ただし趣味の正解があるわけではない。どのようなことに興味を持ち、何を楽しめるかは人によって異なる。
たとえば私は、ブログ記事の執筆や思考そのものがソシャゲの刺激を上回る。
大好きな読書でも、刺激の強さだけでいえばソシャゲの方が上回る。
しかし、もうソシャゲをやりたいとは思わない。
だから、ソシャゲをやめる努力をしながら、自分に合った新しい趣味を探すことが重要だ。
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「それでもやめられない」という人は、迷わず専門家に相談するのが一番である。
問題はソシャゲではなく「刺激」である
ソシャゲは、そのアプリ内に一種の生態系を内包している。
そして、その生態系に依存させるために、人の脳を巧みに設計している。
ソシャゲ自体を悪とは言えないが、その生態系に頭まで浸かってしまうと、抜け出すことは簡単ではない。
ゲームにのめり込んだ経験がある人ほど、ソシャゲはプレイしないに越したことはない。
私が提案するのは、ソシャゲと同等の刺激を持つ趣味を見つけること。
そしてソシャゲから抜け出す現実的な方法は、脱感作(弱い刺激への慣れ)である。
免責事項
私は心理学や医療の専門家ではなく、診断や助言を行う立場にはありません。
本記事は研究や書籍、筆者の経験をもとにした参考情報です。
内容を鵜呑みにせず、必ずご自身の状況や体調と照らし合わせてお読みください。
もし違和感や不安がある場合は、専門家への相談もご検討ください。
参考文献
【だれもわかってくれない ─ 傷つかないための心理学】
ハイディ・グラント・ハルヴァーソン(著)高橋由紀子(訳)早川書房:2020年
【ファスト&スロー(上・下)】
ダニエル・カーネマン(著)村井章子(訳)早川書房:2012年
【新・動機づけ研究の最前線】
上淵寿・大芦治(編著)/西村多久磨・篠ヶ谷圭太・稲垣勉・梅﨑高行・利根川明子・鈴木雅之(著) 北大路書房:2019年
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