近年、テレビや雑誌、SNSなどで「HSP」という言葉を目にする機会が増えている。
生まれつき感受性が高く、外部からの刺激に人一倍敏感に反応しやすい気質を持つ人を指す言葉。
これは病気や障害ではなく、生まれ持った「気質」であり、全人口の15〜20%、およそ5人に1人が当てはまると言われている。
日本でもブーム化しており、SNSで検索すると膨大な情報が見つかる。
しかし、その多くは玉石混交で「HSPは特別な存在」といった誇張表現や、科学的根拠の乏しい特徴づけも少なくない。
その結果、どこまでが事実でどこからが誤解なのかが分かりづらくなっている。
さらにバーナム効果(誰にでも当てはまるような曖昧な内容を、自分だけに当てはまると感じてしまう心理現象)によって、非HSPとの区別すら不明瞭になりつつある。
そこで本記事では「科学的知見に基づくHSPの学術的な位置づけ」と「内向型との違い」に焦点を当て、正しい理解につながる情報を整理していく。
✅ この記事の概要
- HSPとは? ─ 提唱者・定義・SPSとDOESモデル
- HSPの特徴と誤解 ─ 科学的知見とよくある誤認
- HSPと内向型の違い ─ ビッグファイブ理論からの整理
- 両者の重なりと共通点 ─ DOESモデルでの比較
- まとめ ─ 敏感さを強みに変える正しい理解と活かし方
HSPとは何か
提唱者と定義
HSPとは「Highly Sensitive Person」の略称で、日本ではしばしば「繊細な人」「敏感な人」と紹介される。
ただし、これは一般向けの呼び方であり、心理学の研究ではSPS(Sensory Processing Sensitivity:感覚処理感受性)という学術用語が用いられている。
エレイン・アーロンとアーサー・アーロン(1997)が提唱した概念で、動物から人間まで幅広く見られる「感覚処理の個人差」に関する特性を指す。
特徴
- 刺激を細かく処理しやすい
- 外部刺激に敏感に反応する
- 新しい出来事や環境に対して、行動を起こす前にこれまでの経験と照合する傾向がある
定義の本質
「生物学的な特質であり、全人口のおよそ15%に見られる。微細な刺激に敏感で、情報を深く処理する傾向をもつ特性」とされる。
関連する性格特性との区別
内向性や神経症傾向などの他の性格特性と部分的な関連はあるが、SPSは独立した概念として扱われる。
測定法
- アーロン夫妻は、このSPSを測定するために27項目からなる HSPS(Highly Sensitive Person Scale) を開発。
- HSPSは一次元的な尺度であり、信頼性・妥当性が確認されている。短縮版や日本語版も存在し、研究や自己理解に用いられる。
SPSは心理学におけるパーソナリティ特性のひとつであり、病気や診断名ではない。

特性というのは性格を形づくる要素のひとつニャ。
「高い/低い」の違いであって、「ある/ない」で線引きするものじゃないんだニャ。
アーロンの著書2でも、「敏感かそうでないかの二分法では説明できない」という研究結果が紹介されている。
このように、HSPか否かではなく「SPSが高い/低い」という連続的な尺度でとらえることが正確である。
神経科学的な知見
近年の研究では、SPSの高い人は扁桃体や島皮質など感情や共感に関わる脳領域が強く反応することが示されている。
文化的背景
日本では「繊細さん」という言葉とともに広まり、自己啓発的な文脈でも語られることが多い。しかし、心理学的にはあくまでパーソナリティ特性として扱われる点に注意が必要である。
4つの特徴(DOESモデル)
HSP(SPS)の特徴を説明するためによく用いられるのが「DOESモデル」である。
これはエレイン・アーロンが整理した4つの共通特性を表しており、HSPを理解する上で重要な指標となっている。
D:Depth of processing(情報処理の深さ)
- 物事を深く考え、多角的に検討する傾向がある。
- 「一を聞いて十を想像する」「細部まで注意を払う」といった特徴を示しやすい。
- 洞察力や創造性の高さにつながることもある。
O:Overstimulation(刺激に敏感)
- 音・光・匂い・他人の感情などの外部刺激を強く受けやすい。
- 人混みや騒がしい場所を苦手とし、刺激から離れて回復する時間を必要とする。
- 緊張状態のハードルが低く、疲労や不眠に繋がることもある
E:Emotional reactivity and Empathy(感情反応と共感性の強さ)
- 他人の感情を自分のことのように感じやすい。
- 映画やニュースに強く感動・共鳴することが多い。
- 共感性が高い反面、人の機嫌に過敏になりやすい。
S:Sensitivity to subtleties(些細な刺激への感受性)
- 周囲の小さな変化や声色の違いなど、微細な情報にすぐ気づく。
- 些細な物音や光にも反応しやすい。
- 相手の意図を察知したり、危険を予測したりする能力に結びつくが、その分疲れやすい。
DOESは「HSPは病気ではなく、生まれ持った気質である」という点を理解するうえで欠かせない枠組みでだ。
HSPが「創造的」と語られる背景には、このDOESの【D:情報処理の深さ】が大きく影響している。
一方で、【O:刺激への過敏さ】については個人差が大きく、HSPすべての人に強く表れるわけではないことも研究から示されている。
重要なのは「DOESが診断基準ではなく、あくまで理解を助けるためのモデル」という点だ。
誰もがある程度はこれらの特徴を持ち合わせており「4つすべてに当てはまるかどうか」を目安にするのがHSPを理解するうえで大切となる。
HSPの4タイプ
HSPは同じSPSの特性を持ちながらも、その現れ方には個人差がある。一般的には以下の4つのタイプに分けられるが、いずれも「生まれ持った気質」の組み合わせによるものである。
① 内向型HSP
- もっとも多いとされるタイプ。
- 一人の時間でエネルギーを回復しやすい。
- 落ち着いた環境を好み、人間関係も少数精鋭になりやすい。
② 外向型HSP
- 人と関わることが好きで、活動的だが刺激に敏感なため疲れやすい。
- 「外向性」と「繊細さ」の両面を持つため、葛藤を抱きやすい。
- 華やかな場に出る一方で、帰宅後にぐったりすることも多い。
③ HSS型HSP(刺激追求型HSP)
- 新しい経験や刺激を求める「好奇心の強さ」と、繊細さをあわせ持つ。
- 冒険心があるが、同時に疲労やストレスを抱えやすい。
- 「アクセルとブレーキを同時に踏んでいる」ような性質とも言われる。
④ HSS型ではないHSP(安定志向型)
- 新しいことよりも安全や安心を優先するタイプ。
- 日常生活に安定を求め、リスクを避ける傾向がある。
- 穏やかで落ち着いた性質を持つ。
同じHSPでも人によって体験や行動の仕方が異なるため、理解を深める上での参考として捉えるといい。
注意点として、HSPの4タイプは心理学的に定まった診断基準ではなく「自己理解や解説のために整理された分類である」ということ。
そのため研究者や書籍によっては「外向/内向」を基準にしたり、「安定志向型」を含めなかったりと表現が異なる。



運営者の自己理解では、①の内向型と③刺激追求型が併存してる可能性があるニャ。
HSSとは「刺激を積極的に求める特性」を指し、ジッケン(Zuckerman, 1979)が提唱したパーソナリティ特性のひとつ。
新しい体験・冒険・挑戦を好む傾向があり、スリルや新奇性を求める気質とされる。
主な特徴
- スリル追求:冒険やリスクを伴う行動を好む。
- 新奇性追求:未知の体験や多様な活動を求める。
- 脱抑制:衝動的・社交的に行動する傾向。
- 退屈への耐性の低さ:単調な日常に耐えにくい。
HSSとHSPが共存する場合(HSS型HSP)
- 「刺激を求める自分」と「刺激に疲れやすい自分」が同居する。
- 人前に出るのが好きだが、後でぐったりと消耗することがある。
- 新しいことに飛び込むが、同時に強い不安や緊張を感じやすい。
- 心理学者の間では「アクセルとブレーキを同時に踏んでいる」ような状態とも表現される。
このためHSS型HSPは、職場では「新しい企画を立てるのが得意だが、刺激過多で疲れやすい」といった形で現れたり、人間関係では「人と関わるのが好きだが一人の時間も必要」といった二面性が見られる。
自分の特性を理解し、適度な休息やセルフケアを取り入れることが重要になる。
HSPは生まれつき?後天的?
HSP(SPS)を一言で表すと「情報を脳で深く処理する」という生まれつきの特性である。
これは病気や後天的なクセではなく、遺伝的・神経学的に裏付けられた性質だと考えられている。
実際、双子を対象とした研究や脳科学の調査では、SPSには遺伝的な影響があることが示されている。
たとえば、扁桃体(感情の反応に関わる部位)や島皮質(内的感覚や共感に関わる部位)の活動が強いことが報告されており、これは「生まれ持った感受性」として説明される。
ただし、それだけでは終わらない。成長過程の環境も大きく作用する。
SPSの高い人は、ポジティブな環境(温かい親子関係、支え合える人間関係)においては大きく能力を伸ばしやすい。
一方で、ネガティブな環境(過度な批判、虐待、無理解)ではストレスを強く受け、心理的な不適応につながりやすいことが分かっている。
このように、HSPは「先天的な気質 × 後天的な環境の相互作用」によって形作られる。
つまり「生まれつき敏感であること」は変わらないが、その敏感さが「強み」として発揮されるか「生きづらさ」となるかは育った環境やその後の経験に大きく左右されるのだ。



僕が最も重要視するのは「親や周囲の理解」だと思うニャ。
HSPの特徴と誤解
「かまってちゃん」「気にしすぎ」と言われる背景
日本では数年前からHSPブームが広がり、非HSP(SPSが低い人)もHSPという言葉を知るようになった。
その一方で、メディアやSNSで「HSPは特別な存在」と紹介されることが増え、自己都合で「HSPだから配慮してほしい」と免罪符のように使う人も見られるようになった。
さらに、HSPのポップ化によって「HSPは生きづらい」と正誤を問わずアピールしているように(非HSPには)映りやすいのも問題だ。
こうした状況は、HSP本人と非HSPの間に誤解や摩擦を生みやすい。
親や職場の同僚から「気にしすぎ」「神経質」「かまってちゃん」「自称HSP」と受け止められてしまうことも少なくない。



「HSPだから」じゃなくて、具体的に「何が、どう不満」なのかを伝えることが賢明ニャ。
実際には「繊細すぎるから問題」なのではなく、周囲の基準が非HSPに最適化されているために、HSPの反応が【異質】に見えてしまうことが大きい。
よくある誤解 | 実際の心理状態 |
---|---|
かまってちゃん | 安心を求めて環境に適応しようとしている |
気にしすぎ | 脳が情報を深く処理するため、小さな刺激も強く感じやすい |
神経質 | 危険や変化に早く気づく感受性が働いている |
私自身、介護士として働く中で「入所してからいつまでも落ち着かない」繊細な利用者に対して「早く慣れてほしいね」と口にする職員を見たことがある。
(普段は優しい職員。しかし基準が【非HSP的】だとこうした発言になる)
男女で違いはある?
「HSPは女性の特徴」と語られることが多いが、これは文化的なバイアスが影響していると考えられる。
心理学的には男女でSPSの差は大きくないとされている。
ただし、日本社会の価値観を振り返ると、HSPの特性が「女性らしさ」と結びつけられやすいことが分かる。
- 大和撫子:しとやかで奥ゆかしい女性像。
→ HSPの共感性や控えめな振る舞いと関連付けられる。 - 和を以て貴しと為す:集団調和を優先する価値観。
→ HSPは空気を敏感に察知し、摩擦を避けやすい。 - 謙遜は美徳:自己を控えめに表現する文化。
→ HSPの自己批判的傾向や自己肯定感の低さに結びつく。
このように、日本の文化はHSP的な特徴を「理想的な女性像」として肯定しやすい。
その一方で、男性には「強さ・タフさ・感情を抑えること」が求められるため、HSPの男性は女性よりも理解されにくく、不利に扱われやすい傾向がある。
したがって、性差そのものよりも「親や周囲がどれだけ理解できるか」が、本人の生きやすさを大きく左右する。
HSPと内向型の違い
ここからは内向型ラボの視点として「内向型とHSP」の違いに触れていこう。
内向型という言葉は1920年代の精神科医ユングの心理学に由来するが、現代の心理学研究では【内向型】というラベル自体はあまり使われない。
その代わり、性格心理学では統計的に裏付けられたビッグファイブ理論において、外向性(Extraversion)の得点が低いこととして内向型が説明される。
- HSP:感覚処理感受性(SPS)。刺激を細かく深く処理する気質。
- 内向型:外向性が低いという気質を含めた「性格傾向」社交性・活動性・快活さの度合いに関わる。
したがって、本記事では「ビッグファイブの外向性が低い傾向」を内向型と定義し、HSPとの関係を整理していく。
- エネルギーの回復スタイル(人と過ごすより一人の時間で回復)
- HSPとの関わり(別概念だが一部で重なる)
- ビッグファイブにおける外向性の低さとして測定可能
- 自己認識として「自分をどう理解するか」に影響する
さらに詳しい内向型の特徴については以下の記事で解説している。
HSPと内向型の科学的説明
HSPと内向型はよく似ているため、同一視されることが多い。しかし科学的には異なる概念である。
一般的に説明すると
- 内向型:エネルギーを効率よく保つために、人混みや騒がしい場を避けやすい。
(=選択の結果、静かな環境を求める) - HSP:そもそも刺激を遮断するフィルターが薄いため、避けたくても情報が押し寄せてしまう。
(=選択に関わらず、強く影響を受ける)
科学的に整理すると次のように説明できる。
- 内向型
-
外向型よりも副交感神経が優位で、神経伝達物質アセチルコリンが働きやすい。
覚醒水準が高く、少しの刺激でも脳が「通知過多のスマホ」のように飽和しやすいため、人混みや大きな音で疲れやすいと研究で示唆されている。 - HSP
-
【感覚処理感受性】は上記の一部に加えて、感覚皮質・前頭前野・扁桃体・島皮質といった領域が強く反応する。
これにより「細かい刺激の処理」「感情反応」「共感」といった働きが同時に活発化すると研究で報告されている。
ビッグファイブの研究では「外向性の低さ」は内向性をある程度は説明できるが、HSPの中枢であるSPSは神経学的に複雑で、ビッグファイブだけでは測り切れない。



SPSとビッグファイブの関係は研究が進んでいるけど、まだ専門家の中でも意見が分かれる複雑な領域ニャ。
外向型HSPも存在する
「HSP=内向型」と思われがちだが、それを否定する存在が外向型HSPだ。
エレイン・アーロンによれば、HSPの約7割は内向型、約3割は外向型とされている。
ただし、これは「生まれつきの気質に内向型がセットになっている」という意味ではない。
敏感さ(SPS)という気質は先天的なものだが、その後の環境や経験によって、外向的にも内向的にも性格が形づくられると考えた方が正しいと思われる。
- 人と関わるのが好きで活動的だが、刺激に敏感なため疲れやすい
- パーティーやイベントを楽しむが、後でぐったりしてしまう
- 社交的に見えても、内心では人一倍緊張や不安を感じやすい
このように、外向型HSPは「刺激を求める一方で刺激に消耗する」という二面性を持っている。
HSPと内向型の重なり
ここからはHSPと内向型の具体的な重なりを見ていこう。
まずはDOESモデルを使って、生まれつきの気質に絞り、両者に共通する部分だけを抽出してみる。
※ 打ち消し線はHSP特有の要素、オレンジマーカーは内向型とHSPの共通点。
D:Depth of processing(情報処理の深さ)
- 物事を深く考え、多角的に検討する傾向がある。
- 「一を聞いて十を想像する」「細部まで注意を払う」といった特徴を示しやすい。
- 洞察力や創造性の高さにつながることもある。
O:Overstimulation(刺激に敏感)
音・光・匂い・他人の感情などの外部刺激を強く受けやすい。- 人混みや騒がしい場所を苦手とし、刺激から離れて回復する時間を必要とする。
- 緊張状態のハードルが低く、疲労や不眠に繋がることもある
E:Emotional reactivity and Empathy(感情反応と共感性の強さ)
他人の感情を自分のことのように感じやすい。映画やニュースに強く感動・共鳴することが多い。共感性が高い反面、人の機嫌に過敏になりやすい。
S:Sensitivity to subtleties(些細な刺激への感受性)
周囲の小さな変化や声色の違いなど、微細な情報にすぐ気づく。些細な物音や光にも反応しやすい。相手の意図を察知したり、危険を予測したりする能力に結びつくが、その分疲れやすい。
ここで示すのは、あくまで私自身の知識と体感に基づき、DOESモデルを参考にして「内向型とHSPの気質的に重なりやすい部分」を整理したものです。
研究で正式に裏づけられた分類ではなく、また似た行動が見られてもその背景メカニズム(神経の敏感さか、外向性の低さか)は異なる可能性があります。
では、ここからは「成長するに従って共通していく部分」を一つずつ見ていこう。



HSPに外向型がいるように、内向型だからといって必ずしも共感力や創造性が高いとは限らないニャ。
刺激に敏感で疲れやすい
HSPと内向型に共通する大きな特徴のひとつが【刺激に敏感で疲れやすい】という点である。
ただし、その理由は異なる。
HSPは神経系が外部刺激に強く反応するために疲れやすく、内向型は人との関わりや外界の刺激を避ける傾向があるために、過剰に関わるとエネルギーを消耗してしまう。
どちらの場合も「気にしすぎ」というよりは、脳が処理する情報量や認知の方向性が一般より負荷の高い状態になっているために起こる現象だ。
たとえば人混みの中で、非HSPや外向型は「賑やかで楽しい」と感じることが多いが、HSPは音・光・雰囲気の変化を過剰に処理して疲れやすく、内向型は人との接触や会話が多すぎてエネルギーを消耗してしまう。
また、集団での会話でもHSPは声のトーンや表情の微妙な変化を敏感に拾いやすく、内向型は会話そのものの情報量や人付き合いの負担で頭が疲れやすい。
このように背景は異なるものの、HSPと内向型は外部刺激によってエネルギーを消耗しやすいという点で共通している。そのため「一人の時間での休息」や「静かな環境での充電」が欠かせないのだ。
深い思考や共感力
HSPと内向型のもうひとつの共通点は、【深い思考や強い共感力】を持つことだ。
これは単に「考えすぎ」や「感受性が強い」といったレベルではなく、脳の働きとして情報処理が深く、他者の感情を自分のことのように感じやすいことに由来する。
HSPは他者の感情を自分のことのように感じやすく、強い共感力を持ちやすい。
一方、内向型は外界よりも内面に意識を向けやすいため、結果として深い思考や自己省察を繰り返す傾向がある。
両者は異なる経路を通じて「深く考える」「人の気持ちに敏感である」と見えることがある。
たとえば本や映画を見たときに登場人物の感情に深く共鳴して涙したり、友人が落ち込んでいると自分まで胸が痛むように感じることがある。
HSPはこうした感情への共鳴が強く表れやすい一方、内向型は外界よりも内面に意識を向けるため、考えを巡らせすぎて疲れてしまうことがある。
異なる経路ではあるが、両者とも「深く考える」「人の気持ちに敏感である」と見える点で共通するのだ。
この特性は人間関係で疲れやすさにつながる一方で、他者への思いやりや独自の創造性を育む土壌にもなっている。
創造性や感受性の豊かさ
HSPと内向型に共通するもう一つの側面が、【創造性や感受性の豊かさ】である。
刺激に敏感で情報処理を深く行うという特性は、ときに独自の発想や芸術的な表現につながる。
小さな違和感や細部の美しさに気づきやすいため、音楽・文学・絵画・文章などで自分なりの世界観を築く人が少なくない。
たとえば、街の喧騒から一つのメロディを拾い上げて曲にしたり、人の何気ない仕草を物語のヒントにしたりと、周囲からの刺激を創造の糧に変える力がある。
また、感受性の高さは「共感力」とも結びついており、人の痛みに寄り添った表現をすることで、周囲を感動させることも多い。
もちろん、この豊かさは同時に心の疲れやすさにもつながる。しかし、それを理解し、上手にコントロールすることで、感受性は大きな強みへと変わっていく。
HSPは微細な刺激を豊かに受け取る神経特性から、内向型は一人での内的活動に集中する時間の長さから、それぞれ異なるルートで創造性を発揮することがある。
まとめ:HSPと内向型を正しく理解する
✅ この記事のまとめ
- HSPとは「感覚処理感受性(SPS)」という生まれつきの気質であり、病気や診断名ではない。
- HSPの人には内向型も外向型もいる。性格の出方は、育った環境や経験によって変わる。
- 「気にしすぎ」「かまってちゃん」と見られるのは、HSP本人の性格ではなく周囲の理解不足が原因であることが多い。
- 内向型は心理学で「外向性が低い傾向」として説明できる性格タイプ。
- HSPと内向型は別物だが、刺激に敏感・深い思考や共感力・感受性の豊かさなどが重なる。
- 敏感さは欠点ではなく、上手に理解して活かせば大きな強みや才能になる。
✨ HSP・内向型が幸せに生きるためのヒント
- 一人の時間を大切にする:休息は「わがまま」ではなく、必要な充電タイム。
- 環境を整える:静かな場所や安心できる空間を優先する。
- 敏感さを強みに変える:共感力・洞察力・創造性は他の人にはない財産。
- 小さな人間関係を大切に:広く浅くよりも、深く安心できる関係を築く。
- セルフケアを習慣に:散歩・読書・創作など、自分が落ち着く活動を取り入れる。
HSPと内向型は「似ているけれど別物」
それぞれの特性を正しく理解することで、自分や周囲との関わり方がぐっと楽になるだろう。
HSPを自己診断するときの注意点
HSPは生まれ持った気質を示す言葉であり、「私はHSPだ」と断定すること自体に大きな意味はない。
インターネットやSNSにあるセルフチェックは、あくまで自己理解のきっかけに過ぎない。
体調や気分によって誰にでも当てはまることがあるため、安易に「HSPだから生きづらい」とラベルを貼ってしまうと、逆に苦しさを強めることもある。
特に注意したいのは、安易なラベル付けによって、本来支援や治療が必要な状態を見過ごしてしまうことだ。
例えば、HSPと似た特性を持つものとして、以下が挙げられる。
- ASD(自閉スペクトラム症)
対人関係やコミュニケーションに特徴がある発達特性 - ADHD(注意欠如・多動症)
不注意や多動・衝動性が現れやすい特性 - SAD(社会不安症)
人前での不安や緊張が強く日常生活に影響する症状 - 愛着障害
幼少期に安定した養育を得られず、人間関係に不安定さが生じる状態
これらは医療や支援が必要な場合もある。
そのため「HSPなんだ」と安易に納得してしまうのはおすすめできない。本人であっても注意が必要だし、親という立場であればなおさらだ。
例えば自己紹介にも書いているが、私はHSPであると同時に、社交不安症の可能性が高い(未診断)
社交不安症は放置せず、治療や支援を受けることで改善が期待できる症状だ。
大切なのは「HSPかどうか」ではなく、自分の敏感さや反応のパターンを理解し、どう向き合うかだ。
日常生活に大きな支障がある場合は、心理士や精神科医などの専門機関に相談することが望ましい。
さらに専門家を選ぶときは、肩書きに惑わされず、国家資格である臨床心理士や公認心理師など、信頼できる専門資格を持つ人を選ぶことが大切だ。
HSPは診断ラベルではなく、自己理解のための視点。安易に「私はHSPだから」と決めつけるのではなく、特徴をどう活かすかに目を向けることが大切だ。
HSPを言い訳にしないために
HSPとパーソナリティを扱った日本の研究4では、HSP傾向が強い人ほど過敏な自己愛(脆弱性ナルシシズム)の傾向も高まりやすいことが示唆されている。
一見すると控えめで傷つきやすいが、その奥には「他者からの評価」に強く依存した承認欲求が潜んでいる状態。
自己卑下や内向的な態度の裏には「自分はもっと評価されるべきなのに認められていない」という感覚が隠れている。
批判を恐れる繊細さと、特別視されたい気持ちが同居している自己愛の一つ。
この脆弱性ナルシシズムはHSPとは別の概念だが、ネガティブな経験を重ねたHSPが陥りやすいことは想像できるだろう。
私は専門家ではないが「自分自身もその状態に陥った」経験者として、HSPブームにおける一番の落とし穴はこの脆弱性ナルシシズムの潜在化だと考えている。
さらに厄介なのは、「HSPは特別じゃない」と表向きには謙遜していても、心の奥では「特別に思われたい」という気持ちが働いているケースだ。
これは脆弱性ナルシシズムの典型的な落とし穴であり、謙遜することで批判を避けようとする心理が背景にある可能性がある。



こうなると外からはなかなか判断できないニャ…
実際、HSPを扱う本や記事の中には「HSPは特別な存在」「天才的な才能を持つ」といった表現も少なくない。
しかし、過剰に「特別」であろうとすることはおすすめできない。社会との摩擦を増やすだけでなく、なによりも自分を正しく大切にすることから遠ざかってしまうからだ。
過剰に「特別」であろうとするのではなく、敏感さを等身大の自分の一部として受け入れよう。
そのうえで、あるがままの自分を大切にし、前を向いて歩んでいこう。
「言い訳にしない」
3つの実践的アプローチ
- 感情と行動を分ける
傷ついた」「疲れた」と感情を受け入れた上で、次にどう行動するかを自分で選ぶ。 - 承認から貢献へ
「特別でありたい」欲求を「どう役立てるか」という方向に変える。HSPの共感力や洞察力は強みになる。 - 境界線を明確にする
無理を避け、キャパシティを守る。「NO」と言う勇気や、環境を自分で調整する意識が大切。
もっと詳しく知りたい方へ(科学的な補足)
SPSについて研究で分かってきたこと
SPS(感覚処理感受性)の遺伝的な背景
- コペンハーゲン大学の研究では、SPSはセロトニン(気分や安定に関わる物質)の働きと関係している可能性があると報告されている。
- 特に「5-HTTLPR」というセロトニンを運ぶ遺伝子(セロトニントランスポーター遺伝子)との関連が注目されている。
脳の反応とのつながり
- SPSが高い人は、悲しい表情などの感情に対して脳が強く反応することが分かっている。
- これは「気にしすぎ」ではなく、脳が自然と細かい刺激に反応しやすい性質だと考えられる。
他の物質も関わっている
- 北京師範大学の研究では、セロトニンだけでなくドーパミン(やる気や快感に関わる物質)なども関連している可能性が示されている。
- 具体的には、以下のような遺伝子が候補とされている:
- チロシン水酸化酵素(TH)
- ドーパミンβ水酸化酵素(DBH)
- ドーパミントランスポーター(SLC6A3)
- ドーパミンD2受容体(DRD2)
- ノイロリシン(NLN)
- ニューロテンシン受容体(NTSR1, NTSR2)
まとめると
- SPSはひとつの遺伝子で決まるものではなく、いくつもの遺伝子や脳の働きが関わる複雑な特性だと考えられている。
- その複雑さを分かりやすく整理したのが、アーロン博士のDOESモデル(情報処理の深さ、刺激に敏感さ、感情反応・共感、些細な刺激への気づき)である。
- SPSには依然として科学的に解明されていない部分が多く、いまだブラックボックスとして残されている領域も大きい。
差次感受性(Differential Susceptibility)
差次感受性とは「環境の影響を人一倍強く受ける特性を持つ人がいる」という理論。
- ネガティブな環境 → 不安や抑うつなどのリスクが高まりやすい。
- ポジティブな環境 → 創造性や共感性、学習効果などが強く発揮されやすい。
つまりHSPは、悪い環境では傷つきやすいが、良い環境では大きく成長できるタイプとも言える。
例えるなら「肥沃な土壌に植えられた花はよく育つが、荒れ地では枯れやすい植物」のようなもの。環境次第で弱さにも強さにもなりうる。
文脈に対する生物感受性理論(Biological Sensitivity to Context)
生物学的なストレス反応の強さ(生物感受性)が、環境への適応に大きく影響するという考え方。
また、この感受性は主に幼少期に過ごした環境の質によって形成されると言われている。
- 強いストレス反応を持つ人は、逆境に置かれると健康リスクや不適応が生じやすい。
- 一方で、支援的で安全な環境に置かれると、誰よりもよく適応し、高い能力を発揮しやすい。
つまり「ストレスに弱い体質」=単なる弱点ではなく、環境次第でリスクにも才能にもなりうる特性といえる。
例えるなら「敏感なセンサーを持つ生き物」のようなもの。危険にはいち早く反応するが、平和な環境ではその鋭さをプラスに活かせる。
HSPは「生まれつき感受性の高さ」と言われているが、BSCはその基盤が幼少期の環境という文脈でどのように最終的な生物感受性として形作られるかを説明する。



HSPは「高性能なセンサー」を生まれつき持っていること。
BSCは幼少期の経験がそのセンサーの感度を最終的に設定する仕組みニャ。
環境感受性理論(Environmental Sensitivity Theory)
近年の心理学ではSPSを単独で扱うのではなく
といった枠組みを含め、人と環境の相互作用をより包括的に整理しようとする流れが進んでいる。
これらを統合する考え方が環境感受性理論である。5
環境感受性の理論モデル
├─ (A) 差次感受性理論
├─ (B) 感覚処理感受性
└─ (C) 文脈に対する生物感受性理論
人によって環境からの影響の受けやすさが異なるという考え方。
ポジティブな環境にもネガティブな環境にも敏感に反応する特性を、包括的かつ多角的に説明する理論。
免責事項
本記事は筆者の経験や公開された研究・書籍をもとにまとめた参考情報です。
情報をそのまま鵜呑みにせず、ご自身の状況や感覚と照らし合わせてお読みください。
ここで紹介する内容は、あくまで自己理解のヒントに過ぎません。
専門的な判断や緊急の対応については、ページ下部に記載した相談窓口もあわせてご確認ください。