セミリタイアは、内向型にとって理想的な人生設計となり得るのだろうか。
セミリタイアについて調べたことがある人であれば、「FIRE」という言葉を一度は耳にしたことがあるだろう。
FIREとは
資産運用などによって経済的自立を達成し、早期退職を目指すライフスタイル。
完全に仕事を辞めるのではなく、好きな仕事や短時間労働を続けながら、自由度の高い生活を送る。
Financial Independence, Retire Early の頭文字を取って「FIRE」と呼ばれる。
FIREは本来「資産収入が支出を上回る状態」を指す概念だ。
しかし近年では、価値観や生活設計の違いからさ、まざまな派生型が登場している。
ファットFIRE:十分な資産収入によって、働かずにゆとりある生活を送る完全リタイア型。
リーンFIRE:生活費を最小限に抑え、早期リタイアを実現する倹約重視型。
サイドFIRE:資産収入に加えて副業収入を得ながら、セミリタイア状態で暮らすスタイル。
バリスタFIRE:生活費の一部をパート労働で補い、社会保険制度も活用するセミリタイア型。
では、内向型の人間にとって、FIREやセミリタイアは本当に適した選択なのだろうか。
結論から言えばYESだ。少なくとも外向型よりも適性があると、私は考えている。
ただし、セミリタイアは「自由」な生き方であると同時に、精密な計画と継続的な自己管理を前提とする。
つまり、高い自己コントロール能力なしには成立しない選択肢でもある。
この記事では、内向型とセミリタイアの相性や考え方、向き合い方などを順を追って解説していく。
目次
セミリタイアは刺激コントロール法
なぜセミリタイアと内向型の相性がいいのだろうか?
それは、セミリタイアが究極の刺激コントロール手段になるからだ。
「人生は一度きり」YOLOに潜む罠
「You only live once(人生は一度きり)」略して「YOLO」という言葉がある。
近年では「挑戦を恐れず人生を楽しむべきだ」という意味合いの動詞として使われることが多い言葉だ。
しかし、この言葉には投機ブームと結びついて使われた過去がある。1
2020年代に起きたミーム株ブームでは、「YOLO」を合言葉に、資産をミーム株へ投機的につぎ込む人が続出した。
「人生は一度きり」という言葉そのものに罪はない。しかし「刺激を求めろ」という外向型向けの啓蒙に近い。
そして、YOLOの対極に位置すると言えるのが、FIREムーブメントだ。
なかでも、十分な資産を前提とするファットFIREは、その象徴的な存在と言える。
どちらも「豊かに生きたい」という点は共通しているニャ。
内向型には、刺激を強く求めないという特性がある。しかしYOLOは「熱中・挑戦・高刺激」を象徴する。
それなら「熟慮・安心・低刺激」を基調とするFIREのほうが、内向型の気質には合いやすい。
内向型とセミリタイアの相性
現代社会は、「外向性の高さが評価されやすい社会」だと言える。
太陽のように明るい人・人脈が広く楽観的な人・高いプレゼン力・コミュニケーション能力
内向性も「誠実さ・傾聴力・思考力・観察力」といった点では評価される。
ただし、上記のような外向型特性と比べると、評価されにくい場面が多いのも事実だ。
私見ではあるが、社会で評価を得るには、外向性を高めるほうが合理的な戦略になりやすい。
人は「価値がある」と感じた役割のためなら、特性を超えて行動できるとする「自由特性理論」という考え方もある。
しかし、生まれつき内向的な気質を持つ人が、外向型のように振る舞い続けるのは、大きな消耗を伴う。2
であれば、性質を変えようとするより、自分の性質に合った環境との折り合いを探せばいい。
疲労が蓄積しやすいフルタイム労働から距離を取り、自分に合った働き方や環境を選ぶ。
その「刺激をコントロールする」ための選択肢のひとつとして、セミリタイアの考え方は有用だ。
セミリタイアとは「完全には引退せず、労働量を意図的に減らす」生活スタイルを指す。
FIREの中では、副業収入を前提とするサイドFIREや、アルバイトで補うバリスタFIREが該当する。
あわせて読みたい
現代における「外向性」とは何か?|心理学で分かる内向と外向
外向的な人。社交的で明るく、人との関わりからエネルギーを得る人。 よく聞く特徴だが、現代心理学でいう「外向性」はもっと深い意味を持つ。 外向性は「明るさ」や「…
セミリタイアに必要なのは金額ではない
「でも、セミリタイアにはたくさんのお金が必要でしょう?」
そう思う人も多いかもしれない。この点は、外向型・内向型に関わらず、人によって正解が異なる。
ただし、お金そのものが幸福を決定づけるわけではないことは、はっきりしている。
ハインリヒ・ベル『漁師と実業家』3
メキシコの海岸沿いの村で、1人の漁師が昼下がりからのんびりと過ごしていました。
そこへ、アメリカ人のエリート実業家がやってきて、こう助言します。
- もっと長く働き、もっと魚を獲り、大きな船を買いなさい
- 仲介人を通さず、自分の工場を作り、会社を経営するんだ
- 大都会へ移り、株式を公開すれば、10年で大富豪になってリタイアできる
漁師が「リタイアした後は、どうするんだ?」と尋ねると、実業家は得意げに答えます。
「家族と穏やかに過ごし、趣味を楽しみながら自由に暮らすのさ」
それを聞いた漁師は微笑んで言いました。「それなら、私は今すでにそう暮らしているよ」
この話は、幸福の本質がお金そのものにはないことを端的に示している。
同じテーマを扱った寓話は、タルムードの金言集にも登場する。
タルムード金言集『金の冠をかぶった雀』4
賢者ソロモン王は、窮地を救った雀たちに「どんな願いでも叶えよう」と言いました。
雀たちは虚栄心から、「王と同じ金の冠」を望みます。
しかし、金の冠をかぶった雀たちは猟師の標的となり、たちまち絶滅の危機に陥りました。
生き残った雀たちは王に冠を返し、ようやく元の平穏な暮らしを取り戻します。
この寓話が示すのは、「身の丈に合わない外的ステータスを求める危うさ」だ。
この2つの話から、私たちはいくつかの示唆を得ることができる。
- 生活の本質は、必ずしも「お金」ではない
- 外的な欲求(名誉・地位・金銭)と幸福は一致しない
- 自分のステータス感覚とお金の関係を見直す必要がある
ここで改めて問い直したい。セミリタイアに、本当に莫大なお金は必要だろうか?
もちろん、将来の見通しが立っていないのであれば話は別だ。セミリタイアの計画には、慎重さが欠かせない。
セミリタイアは逃避か?自律か?
では、セミリタイアとは「社会からの逃避」なのだろうか。
否定したいところではあるが、私はこれはその人の「意志」によって決まると考えている。
逃避的:働きたくないという意志
FIREやセミリタイアの「失敗例」として、よく挙げられるものが2つある。
それが、貯蓄が目減りしていく不安と、いわゆる「退屈問題」だ。
貯蓄不安問題と暇問題
貯蓄の不安:想定よりも支出が多く、資産が減っていくことへの不安
余暇=退屈:仕事の時間が余暇に変わるが、やることがなく暇を持て余す
この2つが起こる理由は、比較的はっきりしている。
見通しの甘い計画と、「働きたくない」という動機でセミリタイアを選ぶことが原因だ。
計画の甘さは、お金の問題というよりも心理的な問題に近い。これは考え方次第で修正できる。
後述する「楽観性バイアス」で触れる
一方で、「働きたくない」という逃避的な動機でのセミリタイアは、避けるべきだと私は思っている。
なぜなら、刺激をあまり求めない内向型であっても、生物として、刺激のまったくない生活には耐えられないからだ。
ゲームなどの娯楽に没頭したいと思うかもしれない。
しかし、依存的な趣味ばかりを続けていると、やがて刺激に慣れ、満足感は薄れていく。
人は「日々取り組む活動」に意味を見いだせなくなると、簡単に退屈に支配されてしまう。
「働きたくない」と「暇でつらい」は、実は矛盾しないニャ。
自律的:人生を構築する意志
では、どうすれば「逃避的な」セミリタイアにならずに済むのだろうか。
私が重要だと考えているのは「自律性」だ。
セミリタイアにおける自律性
自分の人生を、自分でデザインすること。
楽しみ方、将来設計、お金の扱い方、そして自分の意志をコントロールすること。
さらに、「自分らしさ」や「自分は何者か」「何をしたいのか」を問い続ける姿勢を持つこと。
自律性において最も大切なのは、セミリタイアが最初から「目的」になっていないことだ。
逃避的: 「不快(今の仕事)」から離れることが目的(マイナスをゼロにする)
自律的: 「快(自分の理想)」へ向かうための手段(ゼロをプラスにする)
自律的な「自分らしさ」を追求した結果、その1つの答えとしてセミリタイア。
セミリタイア→自律性ではなく、自律性→セミリタイア、という順番でなければ意味はない。
なぜなら、マイナスがゼロになったところで人生は激変しない。手に入った瞬間に喜びは消える。
しかし、ゼロからプラスにする過程のセミリタイアであれば、人生は変わり続ける。
最大の敵は楽観性バイアス
セミリタイアやFIREは、人生の中でも大きな転機となる選択だ。
その際、もっとも警戒すべきなのが「楽観性バイアス」である。
中でも、自分を過大評価してしまう認知の歪みを、非現実的楽観主義(Unrealistic Optimism)という。
たいていの人は、良いことは他の人よりも自分に起こりやすく、悪いことは起こりにくいと思っている。
ハイディ・グラント・ハルヴァーソン『だれもわかってくれない ─ 傷つかないための心理学』
このバイアスに支配されると、想定した未来が「必ず実現する・必ず実現できる」と錯覚してしまう。
加えて「想像していない悪いことは起こり得る」と考える『マーフィーの法則』というものも存在する。
マーフィーの法則
失敗する余地があるなら、大抵は失敗する。
起こりうる最悪の事態は、実際に起こる。
科学的根拠はない経験則だが、楽観性を抑えるためには有効な考え方である。
「想像している最悪の事態は、たいてい起こらない」という言葉を耳にすることがある。
しかし、人生の選択において、この楽観主義は危険だ。
長い人生では、最悪の事態が実際に起こる可能性を否定できない。
副業収入は、1年後には〇〇円になっている「だろう」
投資の年利が○○%だから、10年後も安心「だろう」
支出や予備費、将来予測も、この程度で大丈夫「だろう」
セミリタイアやFIREなど、人生の選択においては、準備しすぎても、しすぎること(過剰であること)はない。
リスクを0にすることはできない。しかし、リスクに備えることはできる。
嵐に備えて頑丈な船を造る。航海技術を磨く。船をコントロールする精神力を育てる。
内向型の私が目指すもの
ここまでセミリタイアについて語ってきたが、では「私自身」はどのように人生設計を考えているのかを見ていこう。
自由とはなにか?
私は現在(2026年1月)、介護職としてフルタイムで働いている。
利用者との関わりは楽しく、仕事そのものも、どちらかといえば充実している方だと思う。
ただし、人間関係となると話は別だ。
私は「人見知りの強い内向型」という側面が強く、同僚との関係は正直なところ微妙である。
過去には「人見知りを治そう」と努力していた時期もあった。
しかし、ある時ふと思った。人見知りは、本当に治すべきものなのだろうか。
そもそも、私は何者なのか?
人付き合いが苦手・外部刺激(音や話し声)に弱い・考えることが好き
私は昔から考えることが好きだった。
ならば、「私は何者なのか」を人生を通して考え続ける生き方も、1つの答えなのではないか。
労働よりも「考える時間」が欲しい
私は考えることが好きだが、同時に「外部的なステータスにはほとんど興味がない」ことにも気づいた。
同じ服、同じ靴、同じブランドを選び、身の回りの多くを制服化している。
お金は欲しいが、安心や生活費、読書やノベルゲーム以外の嗜好品にはほとんど関心がない。
テレビやSNSはほとんど見ないため、結果的に情報デトックスとなり、購買欲を煽られることも少ない。
これは、「金の冠を被った雀」とは対極にある、「群れから離れた貧しい雀」のような性質だと思っている。
もっとも、私は今の生活に不満があるわけではない。
ただし、この記事の草稿は夜勤中に書いている。
正直なところ、仕事をしている時間よりも、ずっと思索に耽っていたい。
バリスタFIREという選択肢
であるならば、労働の時間は最小限に抑え、思索の時間を増やしたい。
そのための現実的な選択肢として、フルタイム労働からアルバイトへ移行する「バリスタFIRE」を考えている。
生活費や想定資産を踏まえると、週3日・1日6時間程度の労働が理想かもしれない。
もっとも、現時点では確定した計画ではない。今後も検討を重ねていくつもりだ。
アルバイト先という新しい環境の人間関係、介護職を続けるか、人と関わらない清掃業の検討など
私の投資論と資産
内向型のための「静かな投資論」|合理的に資産を築く方法
刺激を求めない内向型は、どのように「お金という刺激の塊」をコントロールすればいいのか? また、もっとも「合理的」に蓄財するにはどうすればいいのか? 人間の感情…
まとめ|セミリタイアという環境選択
セミリタイアは、内向型にとって有効な「刺激コントロールの手段」になり得る。
一方で、「働きたくない」という逃避的な動機が出発点であれば、将来的に不安が膨らむ可能性は高い。
だからこそ、セミリタイアを人生の「ゴール」に据えるのではなく、人生という「旅の途中」に位置づけるべきだ。
セミリタイアを成立させるには、強い自己コントロール力と、楽観性バイアスを意識的に排除する姿勢が欠かせない。
まずは「自分にとって本当にセミリタイアが必要なのか」という問いから出発する必要がある。
そして自分にとっての「最適な環境」を知ることが重要だ。
このブログでは、その手がかりとして「内向型診断」や「HSP診断」も用意している。
あわせて読みたい
内向型と外向型診断|20問でわかるあなたの性格傾向テスト
あなたは内向型だろうか?外向型だろうか?それとも、両向型だろうか? これから紹介する20問チェックは、主に現在のあなたの傾向を知るためのチェックリストだ。 大人…
あわせて読みたい
4種類のHSP診断でわかるあなたの繊細さ|20問チェックリスト
「私は繊細なのだろうか?」 近年は「繊細さん」と呼ばれるHSPという気質が広く知られるようになった。 しかし、自分が具体的にどのように繊細なのかまでは分からないこ…
免責事項
本記事は、心理学・金融・キャリアなどの専門的助言を目的としたものではありません。
内容は書籍や研究資料、筆者自身の経験や考察をもとにまとめた参考情報です。
内容を鵜呑みにせず、ご自身の価値観・生活状況に照らし合わせながらお読みください。
人生設計など、具体案が必要な場合は、専門家や公的な相談窓口の利用もご検討ください。
参考文献
コメント