情報があふれる現代において、私たちは何を信頼すればよいのだろうか。
自己啓発、アンチエイジング、ライフスタイル、効率化、投資に関する情報の数々
こうした情報の中で、「エビデンスや科学的根拠」という言葉も広く使われている。
しかし、科学的根拠があれば、それは「誰にとっても信頼できる正解」といえるのだろうか?
SNS上の情報であっても、専門家の発言なら常に正しいのだろうか。
CMで見かける「〇〇の原因に効く」といった売り文句は、本当に信頼できるのだろうか。
専門家でありながら、商業的な利益や集金、名声を目的としたポジショントークは数多くある。
不安を煽り、商品やサービスへの誘導を狙うCMやSNSの投稿も少なくない。
そんな情報があふれる中、私たちは何を信頼し、何を疑うべきなのだろうか。
確かなのは、鵜呑みにできる情報の方が少ないことニャ。
この記事では、科学的根拠の信頼性や情報を見極める際の注意点を整理したい。
そして、私たちが何を基準に情報を判断すべきなのかを考えていきたい。
目次
信頼できる情報の基準
結論から言ってしまおう。
私たちが事実や因果関係を判断するうえで、科学的根拠は、私たちが利用できる重要な基準のひとつである。
ただし、科学的根拠といっても、その信頼性は一様ではない。
研究の方法や規模、結果の再現性などによって、根拠としての確かさには大きな違いがある。
科学的根拠を重視する
専門家の意見は、その分野の知識や経験を持たない人の意見と比べれば、信頼できる情報源のひとつである。
しかし、専門家の意見だからといって、必ずしも正しいとは限らない。
そこで重要になるのが、その主張がどのような科学的根拠(エビデンス)に基づいているか、という視点だ。
実は、科学的研究の成果を発表する「論文」であっても、研究方法や分析手法によって信頼性は大きく異なる。
エビデンスの信頼性を評価する方法は、研究分野や評価基準によって異なるため一概には言えない。
ただし、以下のような研究方法は、信頼性の高い根拠を得るうえで重要な役割を果たしている。
代表的な研究手法
- システマティックレビュー
あらかじめ定めた方法で関連する研究を網羅的に検索・選定し、その質や結果を体系的に評価する。
- メタ分析
複数の研究で得られたデータを統計的に統合し、効果の大きさや不確実性を推定する。
- ランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)
参加者を無作為に複数のグループに分け、治療法や介入の効果を比較する研究手法。
専門家が執筆した書籍でも、主張の根拠として、こうした研究や論文が引用されていることは多い。
複数の研究結果を統合し、統計的に分析するメタ分析も実施されている。それによると――
クリスティアン・ベネディクト、ミンナ・トゥーンベリエル『熟睡者』第9章
130万人を対象とした最近のメタ分析によって、過剰な脂肪と高いBMIと認知症の関連は――
ガブリエル・ライオン『筋肉が全て』part1
研究の質と限界を知る
もっとも、こうした研究手法だけで、エビデンスの確実性が決まるわけではない。
研究のバイアス、出版のバイアス、結果の一貫性、推定の不確実性なども、結論の確かさを左右する。
たとえば、ランダム化比較試験(RCT)は、実地期間や対象者数を十分に確保することが難しい場合もある。
研究の規模が小さいと、推定結果の不確実性が大きくなりやすい。
また、偶然の影響を受けやすく、極端な値を示す少数のデータによって、結果が大きく左右されることもある。
観察研究で健康にいい、もしくは悪いと判断された食品と、ランダム化試験で健康にいい、もしくは悪いと判断された食品とのあいだには、あるとしても疑わしい相関関係しかない。
スチュアート・J・リッチー『Science Fictions あなたが知らない科学の真実』6章
さらに、科学的な研究結果を読むうえでは、もっとも重要なのは次の点だ。
多くの人に当てはまる傾向が、自分自身にもそのまま当てはまるとは限らない。
その一例が、食事による血糖値の変化だ。
同じ食べ物を食べても、食後の血糖値の上昇幅は人によって異なることが研究で示されている。
よく知られた例として、バナナとクッキーを食べた際の血糖値の反応を比較した研究がある。
クッキーを食べたときは血糖値が上昇し、バナナを食べたときは穏やかな変化しか見受けられなかった参加者はいる。
だが、それとは正反対の反応を示した参加者も本当にいた!
ショーン・スティーブンソン『EAT』第6章 chapter4
一般的に、甘いクッキーよりも低GI値であるバナナの方が血糖値が上がりにくいと言われている。
しかしある参加者は、クッキーよりもバナナを食べたときの上昇幅のほうが大きかった。
そして、この研究を曲解して「バナナは血糖値が上がりやすい」と結論づけるのも問題がある。
学ぶべきは、食品のGI値や一般的な傾向だけで、個人の反応を完全には予測できないという点である。
もうひとつの有名な例として、米空軍のパイロットの体格をめぐる事例がある。
1950年代、平均的な体格に合わせて設計されたコックピットは、実際には多くのパイロットの体格に合わなかった。
YouTubeリンク『平均の神話:TED』
集団を対象とした研究で効果が認められても、その効果がすべての人に同じように当てはまるとは限らない。
そもそも、統計上の平均値に当てはまる人が、あらゆる面で「普通の人」とはいえない。
とはいえ、科学によって一般的な傾向を知ることは、物事を判断するうえで重要な出発点となる。
個人差があるからといって、集団で確認された傾向を否定する必要はなく、軽視してもいけない。
一般的な傾向を判断の出発点としつつ、それが個人にも当てはまるかどうかは別に考えるべきである。
まとめると、次の一文に集約される。
科学的根拠やデータにも信頼性の違いがあり、どれほど信頼性が高くても、参考になるとは限らない。
疑うべき情報の特徴
科学的根拠に基づく情報は、物事を判断するうえで重要な指針となる。
だが、ビジネスの場面では「エビデンスがある」という事実が、価値を過大に見せるために利用されることもある。
研究で確認された効果の大きさや対象者、条件などを無視、あるいはまったく提示していない売り文句も多い。
まるで「万人に効く特効薬」であるかのように宣伝する情報には注意が必要だ。
強い断定と商業的な煽り
YouTubeなどのSNSで特定のテーマについて調べると、その分野の専門資格を持つ発信者が数多く見つかる。
中には、必要以上に強い言葉を使い、視聴者の関心を引こうとする発信者もいる。
「不都合な真実」「本当の理由」「絶対」「必ず」「知らないと後悔する」など
しかし、その発信がスポンサーからの依頼であったり、商品の販売につなげるための宣伝の場合もある。
こうした商業的な利害関係がある場合、商品の良い面が強調され、不都合な情報が十分に伝えられない可能性がある。
依頼された商品であっても、忖度せずに率直な意見を発信する人はいるだろう。
ただし、依頼を受けた時点で、依頼主との関係や報酬などが発信内容に影響する可能性はある。
本人にそのつもりがなくても、無意識のうちに商品を好意的に評価してしまうことも考えられる。
個人的な見解だが、特に注意したいのは、次のような情報発信者である。
注意したい情報発信者
自社のECサイトや提携先で販売している商品を、欠点や注意点を十分に説明せず、過剰に持ち上げている。
科学的根拠を主張の裏づけとして持ち出しながら「絶対」「結論」といった断定的な言葉を多用する。
自分が発信する情報によって、人生や生活が劇的に変わると強く謳っている。
強い言葉は人を惹きつける。
しかし、その主張を裏づける根拠があるのか、発信者にどのような利害関係があるのかを確認する必要がある。
これは、商品やサービスを直接販売せず、情報そのものを商品として扱うインフルエンサーについても同様だ。
その情報は、確かな根拠に基づいて発信されているのか。
それとも、人々の関心を引き、集客や収益につなげるために選ばれた情報なのか。
表面的な言葉に惑わされず、情報の質は慎重に判断しなければならない。
専門家の合意に反する主張
ビジネスやマーケティングには、少なからずポジショントークが含まれている。
ポジショントーク
自分の立場や利害関係に基づき、自分に都合のよい方向へ発言や主張を組み立てること。
ポジショントークそのものが、必ずしも悪いわけではない。
自分や自社の商品・サービスの価値を伝え、売り込むことは、ビジネスにおいて一般的な行為である。
明らかな嘘はつかないが、都合のよい情報だけを伝え、不都合な事実には触れないといった発信も見られる。
善悪では測れない競争社会の弊害だと思っているニャ。
さらに注意したいのが、専門家の間で広く共有されている見解や通説にあえて反対する発信者である。
「医者が語らない驚きの真実」
「知られたくない事実を暴露」
「これまでの常識は間違っていた」
こうした言葉は特別感を演出し、見る人の好奇心や不安を刺激する。
「自分だけが知られざる真実を知っている」「世間が信じていることは間違っている」など
たしかに、通説が誤っていたと判明することもあれば、少数派の主張が正しかった場合もある。
多数派に反対すること自体が、間違いというわけではない。
しかし、その実態が注目や集客、商品販売を目的としたポジショントークである場合もある。
十分な根拠のない、単なる逆張りである場合もある。
特に、特定の職業や専門家全体を攻撃したり「世間は騙されている」と強く訴えたりする主張には注意したい。
刺激的な言葉や少数派であること自体を根拠にせず、主張を裏づける証拠の所在を確認する。
そしてその証拠が、発信者に都合よく解釈されていないかを確認することが大切だ。
科学を参考に自分を検証する
私は「情報はまず疑い、科学的根拠を確かめることから始めよう」と強く伝えたい。
しかし、利害関係があるから悪い、ポジショントークだから信用できないと、単純に判断するのは軽率である。
特に、自分に都合の悪い主張を、商業的なポジショントークだと決めつけて退けることは避けたい。
信頼できる科学的根拠を探す
まず、情報を判断するうえで確認したいのは、その主張を裏づける科学的根拠が蓄積されているかどうかである。
システマティックレビューやメタ分析、個々の研究論文を読むのもよい。
ただ、論文は専門的な知識が必要なものも多く、内容を正確に理解するのは簡単ではない、が
専門家の間で一定の合意が形成された情報は、一般の人でも公的機関や専門学会などの発表を通じて確認できる。
たとえば、WHO、厚生労働省、CDC、各国の専門学会などが公表するガイドラインや資料である。
健康に関する情報であれば、WHOのガイドライン、厚生労働省「日本人の食事摂取基準」など
筋力トレーニングに関する情報であれば、米国スポーツ医学会が公表するポジションスタンドなど
こうした資料には、すでに「当たり前」とされている情報も多いし、絶対に正しいとは限らない。
しかし、その背景には、研究の蓄積や専門家による評価がある。
公的機関や専門学会は、新たな研究や知見に応じて指針を見直すこともある。
たとえば、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」は、原則として5年ごとに改定されている。
もちろん、どんな情報でも時代の変化や利害関係によって後から覆ることはある。
だが根拠や作成主体を確認しにくいSNSの刺激的な主張と比べれば、参考にしやすい情報源であることは確かだ。
また、専門家が書いた本を読むときは、同じ分野の別の著者の本と読み比べることも有益だろう。
最後に判断するのは自分
いくら科学的知見が蓄積され、信頼性の高い情報であっても、自分に当てはまるかを確かめることが大切だ。
以前、16時間断食が話題になったとき、私も数週間試したことがある。
私は昔から太りにくく、BMIは18〜18.5程度で推移してきた。
10年以上にわたって体重に大きな変動はなかった。
しかし、断食を試したところ、さらに体重が減り、疲れやすくなった。
断食と関連づけて語られるオートファジーは、細胞内の成分を分解・再利用する仕組みである。
この仕組みが存在することと、16時間断食が人間の健康に確かな効果をもたらすことは別の話だ。
私の場合、少なくとも体重や体調の面で断食は合わなかった。
どんな情報を信頼するかは自由だが、情報によって根拠の質や信頼性は異なる。
たとえば、情報量が錯綜しやすいダイエットの方法論など、極端な意見に飛びつく必要はない。
また、情報を判断する際には「知りたい」と「信じたい」の違いにも注意する必要がある。
人は、自分が信じていることを「正しい」と考えたくなる傾向がある。
自分の考えを支持する情報を重視し、反対の情報を軽視してしまう心理傾向は「確証バイアス」と呼ばれる。
情報を吟味する際にはまず、信頼できるガイドラインを参考にするところから始めたい。
免責事項
本記事は、各種データや社会的な視点をもとに、筆者個人の見解として考察をまとめたものです。
取り上げたテーマには多角的な議論や様々な立場が存在します。
また、記事の内容は客観的な正解や絶対的な基準を保証するものではありません。
あくまで物事を考える上での一つの視点として、ご自身の価値観や判断を大切にしながらお読みください。
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